SS: 料理人の誇りとディストピア(ツムギ視点)
拙者は、和の国ヤマトで料理の道を志し、ユウ殿たちのキャンピングカーで『本当の美味さ』というものを学んできた。
大賢者殿の舌を唸らせ、美食都市グルメンティアの食の祭典でグランプリを取った。拙者の料理人としての腕と誇りは、決して誰にも負けないつもりでござる。
だが、この魔導機械都市スチームガルドの光景を見た時、拙者の胸に煮え滾るような『怒り』が湧き上がった。
『食事の時間は三十秒。ペースト状の完全栄養サプリメントのみ。味覚は非効率』
ふざけるな、と思ったんよ。
食事というのは、ただ生きるためのエネルギー補給じゃない。
美味しいものを食べて「ふふっ」と笑うこと。温かいものを食べて「ホッ」と息をつくこと。誰かと一緒に食卓を囲んで、その時間を分かち合うこと。
それこそが、命を持つ者が享受できる『最大の幸せ』のはずでござる。
「……絶対、絶対に認めないんよ。あんな冷たい顔をしてる連中に、拙者の料理で『笑顔』を取り戻させてやるんでござる!」
拙者はキャンピングカーの屋台モードの厨房に立ち、『伝説の大鍋』に白だしベースの特製スープを張った。
大根、こんにゃく、牛すじ、ちくわ。
寒空の下で食べる屋台の「おでん」。そして、豚の脂と味噌の香ばしさが爆発する「豚汁」。
ヤマトが誇る、冬の最強タッグなんよ。
匂いが路地裏に広がり、最初の機械化労働者がフラフラと屋台にやってきた。
彼は「非効率だ」と口にしながらも、拙者が差し出した『飴色に染まった大根』を口に運んだ。
そして。
「あぁ……美味しい……。なんて、温かいんだ……」
男は、機械の体からボロボロと涙を流し、突っ伏して泣き始めた。
その瞬間、拙者の胸の中にあった怒りは、どこまでも深く温かい『料理人としての喜び』に変わった。
そうなんよ。これなんでござる。
どんなに体を機械に作り変えられようと、どんなに効率で心を縛り付けられようと。
人間の魂の奥底には、必ず『美味しいものを食べて幸せになりたい』という欲求が眠っている。拙者の料理は、それを呼び覚ますための魔法なんよ。
「さぁさぁ! どんどん食べて、どんどん笑うんでござる! 拙者の『おでん』は、機械の心だって溶かして、ポンコツにしてやるんよー!」
拙者は鼻歌を歌いながら、次々と集まってくる住人たちに、アツアツの豚汁をよそい続けた。
凍え切ったディストピアに、拙者の手で作った「笑顔」が広がっていく光景は、料理人にとって何よりのグランプリだった。




