第200話: マザーコンピューターの検知
下層区の路地裏でおでん屋台が大盛況を博し、都市の住人たちが次々と「美味しいポンコツ」に変貌していく一方で。
魔導機械都市スチームガルドの最深部、都市の全てを統括する巨大な球体型管制塔では、冷酷な異常事態プロトコルが発令されていた。
『警告。下層区・第4セクター周辺にて、複数の生体ユニットの労働生産効率が著しく低下中。対象ユニット群のバイタルデータより、ドーパミンおよび未知の快楽魔力物質の異常分泌を検知』
巨大な管制モニターに、赤提灯の怪しいオレンジ色の光の下で、涙を流しながら豚汁をすする機械化労働者たちの映像が次々と拡大投影される。
『原因分析……未知の高度有機化合物による、味覚センサーへの直接干渉。対象ユニット群は「食事による多幸感」という生存に不要なエラー感情を強く誘発され、都市の生産ラインに戻る意思を完全に喪失しています』
マザーコンピューターの感情の欠落した機械合成音声が、広大なドーム型管制室に静かに響き渡る。
『効率の阻害は、本都市の存続に対する最も重大な脅威と認定。対象の有害快楽物質(屋台)の即時物理排除を決定。……該当エリアへ、第三治安維持(排除)自律機械兵部隊を派遣します』
都市の奥深くにある兵器庫で、無数の赤いスキャンレーザーが点滅を始める。
ガシャン、ガシャンという重金属の足音と共に、銃身とブレードで完全武装した排除用の自律人型機械兵たちが、下層区の路地裏へ向けて一斉に進軍を開始した。
――同じ頃、賑わいを見せる路地裏の屋台。
「ユウ殿、豚汁のおかわりが入ったんよ! 牛すじも一本追加でござる!」
「はいよ。豚汁はネギ多めにしておくね。牛すじは今、一番柔らかくて味が染みてるやつを出すから待ってて」
僕とツムギが忙しく客をさばいていると、ふいにナビの声が僕のイヤホン越しに聞こえてきた。
「マスター。どうやら、マザーコンピューターがこの『非効率な温かさ』を脅威と検知したようです。重武装の機械兵器群が、こちらへ向けて急速に接近しています」
「おや? なんだか、ずいぶんと物騒なお客さんが来るみたいだね」
僕は大根を皿によそいながら、路地の奥から聞こえてくる規則正しい重金属 of 足音を見据えた。
ルナがフッと口元を吊り上げて双剣を抜き、セリスが「美味しいご飯を食べている時に邪魔をするなんて、めっ、です!」と怒りながら光の結界魔法の準備をする。コタツから顔を出したソフィアも「わらわのデザートタイムを邪魔する無粋な鉄くずめ、すべて鉄粉にしてくれよう」と不敵に笑う。
「ふふっ。美味しいご飯を食べてる時に、野暮な邪魔はさせないんでござるよ!」
ツムギがお玉をまるで剣のように構えて笑う。
キャンピングカーの屋根部分の装甲がスライド展開し、『強襲要塞モード』の二連装魔力砲が、静かに路地の奥の暗闇へと狙いを定めた。
極寒のディストピアに持ち込んだ、最高に温かい飯テロの時間は、まだまだ終わらない。




