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追放聖女を拾ったので、最強キャンピングカーで旅に出ます ~過酷な逃亡生活? いえ、エアコン完備で快適スローライフです~  作者: 悠々


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第197話: 最初の犠牲者(客)

 魔導機械都市スチームガルドの労働第一フェーズ終了を告げるサイレンが、ドーム全体に冷たく響き渡った。

 右腕と両足を金属製の機械義肢に換装した一人の労働者が、配給所で三十秒のサプリメント・ペーストの摂取を終え、今日の休眠をとるべく居住ブロックへ向けてトボトボと重い足取りで歩いていた。


「……」


 彼の眼球に埋め込まれた青い魔導光学センサーは死んだように光り、表情は一切動かない。

 毎日、ただマザーの命令に従って同じ規格のネジを千回締め、規定量のエネルギーをチューブから喉に流し込み、ただ泥のように眠るだけの日々。

 感情を持つことは生産効率の無駄。労働力を下げる思考は致命的なエラー。それがこの都市における絶対的な秩序だ。


 だが、その日の帰り道。

 彼がいつも通る薄暗い下層区の路地裏に差し掛かった時、彼の『嗅覚センサー(および、奇跡的に残された人間の鼻)』が、あり得ないはずの刺激成分を受信した。


「……なんだ、このデータは」


 それは、微粒子レベルで脳髄を直接揺さぶるような、甘く、香ばしく、そして途方もなく『温かい』匂いだった。

 彼の意志とは無関係に、機械の足がピタリと停止する。そして吸い寄せられるように、匂いの源である薄暗い路地へとフラフラと歩き出していた。


 暗い路地裏の奥に、不気味かつ不釣り合いに赤く光る『赤提灯』が見える。

 そして、透明なビニールカーテンの向こう側に、もうもうと白い湯気を上げる二つの巨大な鍋と、それを挟んで笑顔で立つ数人の人間の姿があった。


「へい、いらっしゃい。寒かったでしょ、温かいの食べていきなよ」


 黒髪の青年――ユウが、ビニールカーテンを少し手で開けて穏やかに声をかける。

 カーテンの隙間からドッと漏れ出した強烈な『おでんのダシの匂い』と、熱気が男の顔面を直撃した。その瞬間、男の脳内処理がガツンと殴られたように停止した。


「……食、事……? いや、本日の食事による必要熱量の摂取は、すでに配給所で完了している。これ以上の無駄な経口摂取は、非効率な行為として……都市憲章に……」


 男は機械のようにプログラムされた拒絶の言葉を紡ごうとするが、その両目は、黄金色のスープの中でグツグツと優しく煮込まれている、飴色の丸い『大根』に完全に釘付けになっていた。


「いいから、騙されたと思って食べてみるんよ」


 割烹着姿の少女――ツムギが、大鍋から丁寧に煮崩れしていない大根を一つすくい上げ、小皿に盛った。そこにたっぷりと熱々のダシ汁をかけ、木のお箸と共にカウンターへと差し出した。


「お代はいらないでござる。この冷たい寒空の下で一生懸命に頑張った、自分自身への『ご褒美』なんよ」


 男の機械の右手が、ジーッジーッとサーボモーターの音を立てて微かに震える。

 脳内の魔導回路からは「食べるな(非効率)」「未認可食物(エラー)」という赤い警告ログが点滅し、警告音が頭の中で鳴り響いていた。

 しかし、彼に残された僅かな『人間の魂』が、その熱々の大根から立ち昇る、あまりにも優しく温かい湯気に、完全に屈服した。

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