第195話: フードトラック・冬の屋台モード
「周辺の監視カメラ十ニ台の映像データをハッキング。前日同時刻の『異常なし』の映像をループ再生する処理を完了しました。さらに熱源感知スキャナーへの応答を偽装。トランスフォームを開始します」
魔導機械都市スチームガルドの下層区。
金属の天井に覆われ、青白いネオンの光すら届かない、錆びた配管が剥き出しになった暗く冷え切った路地裏。そこにひっそりと停車したキャンピングカーの巨大な車体が、ナビの制御による静かな駆動音と共に滑らかに変形を始めた。
『外部の超硬度装甲の一部をスライド・パージ。車体左側面の金属パネルを上部へ展開し、木製のカウンターおよび調理スペースを外部へ拡張します』
重装甲列車の厳めしい鉄の横腹がパカッと開き、かつて和の国ヤマトの街で大活躍した『フードトラック(屋台)モード』の木製カウンターが出現する。
しかし、ここはヤマトと違ってマイナス気温の極寒地帯だ。そのため、今回は特別仕様の装備が展開される。
「外は凍えるような寒さだからね。ナビ、冷気遮断用のビニールと暖房を頼むよ」
「承知しました。極地対応・冬の屋台仕様へと最適化します」
カウンターの外側を覆うように、透明で分厚い耐寒仕様の『ビニールカーテン』が天井からシャラシャラと吊り下ろされた。
さらに、屋台の軒先には、僕がネットスーパーで購入した『赤提灯(魔力発光仕様)』が三つ、冷たい風に揺れながらぶら下がる。その提灯が灯す、温かみのあるポカポカとしたオレンジ色の光が、無機質で汚れた路地裏の壁をじんわりと照らし出した。
「おおっ、これは……! まさに日本の冬の屋台って感じだね! 雰囲気最高だよ」
「なんだか、この透明なカーテンの中にいるだけで、外の吹雪を忘れてすごくワクワクしてくるわね……!」
コタツから抜け出し、屋台スペースを覗き込んだルナが目を輝かせる。
ビニールカーテンの向こう側は寒々しい機械都市の路地裏だが、カーテンの内側は『究極システムキッチン・プロ』の排熱と魔導ヒーターのおかげで、上着がいらないほどのポカポカで快適な空間に保たれていた。
「さぁて、ユウ殿! 食材の準備はいいでござるか!」
お馴染みの割烹着を身にまとい、赤いたすきで袖をキリリと縛り上げたツムギが、気合十分といった様子で巨大な調理鍋の前に立った。
「バッチリだよ。この街の連中が、寒さもサプリメントも忘れてしまうような『最高に温かい飯』を作ってやってよ」
「任せるんよ! 拙者の料理人としてのプライドと意地にかけて、この冷え切った街の連中に、最高に美味しくて『非効率』な時間を提供してやるでござる!」
ツムギの力強い宣言と共に。
極寒のディストピアに、前代未聞の美味なる『飯テロ』が幕を開けた。




