第193話: ディストピア・スチームガルド
分厚い鋼鉄のゲートを抜けると、外の猛吹雪が嘘のように静まり返った。
キャンピングカーは現在、ナビの判断によって『ステルス・スモーク機能』をオンにして走行している。車内からは外がパノラマのように見渡せるが、外からはただの窓のない黒いメンテナンス装甲車両にしか見えない状態だ。
「うわぁ……なんか、すっごく寒々しい街ね……」
窓の外を見たルナが、コタツに潜り込んだまま、顔をしかめて呟いた。
温度の話ではない。車内はポカポカだが、窓の外に広がる街全体の『空気感』が異質なのだ。
ドーム型の巨大な金属 of 天井に覆われた空には、当然だが太陽も雲もない。
代わりに見下ろすのは、無機質に点滅する青白いネオンの街灯や、巨大な工場の煙突から噴き出す白煙。立ち並ぶ幾何学的な居住棟の壁面には、都市のスローガンとおぼしき文字が冷たく光っている。
そして道路を行き交う人々は、その多くが手足や目を機械化したサイボーグや、ナナと同じ無機質な表情のオートマタたちだった。
彼らは一様にうつむき加減で、会話を交わすどころか、まるで行進するように一定の歩幅とリズムで歩き続けている。楽しそうに笑う子供 of 姿も、雑談する大人の姿も、ここには一切見当たらない。
『ここでは、全ての労働と生活がマザーコンピューターによって秒単位で管理されています。「無駄」は徹底的に排除され、効率のみが美徳とされています』
ナナが感情の起伏のない平坦な声で解説する。その様子は、彼女がこの都市の一部であったことを改めて思い出させた。
「……あれは、何をしてるんよ?」
ツムギが窓ガラスに顔をくっつけるようにして、広場のような場所を指差した。
そこには『エネルギー配給所・第12支部』と書かれた看板があり、グレーの作業着を着た労働者たちが無言で一列に並んでいる。
『食事の時間です。本日の労働の第一フェーズを終えた者たちが、エネルギー補給を行っています』
「食事……? でも、誰も料理らしきものを持ってないでござるよ? 鍋も、お皿も、お箸も見当たらないんよ」
配給所の窓口で配られていたのは、温かい料理でもパンでもなかった。
無機質な銀色のチューブに入った、粘土のような色をした謎のペーストだ。
労働者たちはそれを受け取ると、包装を剥ぎ、その場でチューブの口を直接吸い込んだ。噛むことすらなく、たった三十秒で流し込むように中身を飲み干してしまう。
そしてゴミ箱にチューブを捨てると、何事もなかったかのように、再びロボットのような無表情で職場へと歩き出していくのだ。
『あれは魔導配合された完全栄養サプリメント・ペーストです。味覚を刺激する無駄な成分は一切含まれていませんが、三十秒で一日に必要な魔力熱量と栄養素を完璧に摂取できる、最も効率的な食事形態です』
ナナの淡々とした解説を聞き終わる前に。
キャンピングカー内の空気が、ピリッと凍りついたのがわかった。




