第191話: 氷のドームと鋼鉄の門
キャンピングカーが『重装甲列車モード』で猛吹雪の雪原を爆走すること数時間。
車内はエアコンと床暖房、あるいはリビング中央に鎮座する特製コタツのおかげで、まるで日本の実家にいるかのような極楽空間だった。だが、フロントガラスの向こう側は、すべてを拒絶するような狂った白銀の暴風雨が吹き荒れている。
助手席(コタツの隣に増設されたモニター席)に座るナナが、平坦な電子音声で告げた。
『マスター・ユウ。前方三キロ、吹雪の向こうに目的の座標を確認しました』
ナナの言葉に従い、僕はコタツから首だけを引っ張り出してフロントガラスの向こうへ視線を凝らす。
荒れ狂う白い嵐の向こう側に、うっすらと山のような巨大な影が見えてきた。
「なんだ、あれ……? 本当に街なのか?」
「いや、山じゃないわ。人工物ね。信じられないくらい巨大なドームよ。あの表面、全部金属の装甲板と分厚い氷で覆われてるわ」
コタツからみかんを引っ張り出しながら、ルナが驚きの声を上げる。
近づくにつれて、その圧倒的な全貌が明らかになった。それは厚い永久凍土の氷と、幾何学的な紋様が刻まれた金属装甲で覆われた、直径数キロにも及ぶ超巨大な半球型のドーム構造体だった。
外からの侵入を一切拒絶するようなその姿は、都市というよりも監獄か、あるいは巨大な要塞に見える。
『あれが私の故郷、魔導機械都市スチームガルドです。都市は完全な環境制御下にあり、外部の極寒吹雪を遮断し、内部の労働効率を最適化しています』
巨大なドームの麓には、高さ数十メートルはあろうかという分厚い防壁が城壁のように築かれていた。
そして、その中央には都市の唯一の出入り口となる『巨大な鋼鉄のゲート』がそびえ立っている。
「……なんか、あの門の周り、トゲトゲした物騒なものがたくさん付いてるんだけど」
『はい。防衛用自律魔導砲台群です。熱源探知、魔力波スキャン、網膜認証。許可なき生体反応が接近した場合、警告なしに三秒以内に粉砕される防衛プロトコルが稼働しています』
ナナがピクリとも表情を変えずに恐ろしい警告を発した。
確かに、装甲壁の至る所から重厚な銃身がニョキニョキと生え、こちらの車を狙うように不気味な駆動音を立てて動いているのが見えた。
「で、どうするのユウ? さすがにこの車でも、あの砲台からの一斉掃射を食らったらタダじゃ済まないでしょ。いっそ『強襲要塞モード』に変形して、正面から門ごとブチ破る?」
ルナが物騒な提案をし、ソフィアもコタツから顔を出して「わらわの極大魔法で消し飛ばしてやってもよいぞ?」と悪戯っぽく微笑む。
「いやいや、僕たちは穏便に観光とスローライフを楽しみに来ただけだからね。喧嘩を売る必要はないよ」
僕は苦笑いしながら首を振り、天井のスピーカーに向かって呼びかけた。
「ナビ。どうにかなる?」
「問題ありません、マスター」
ナビの冷たくも絶対的な自信に満ちた声が、静かに車内に響き渡る。
「野蛮な破壊行為など不要です。あのような時代遅れのセキュリティシステムなど、私にかかれば正面から堂々と通過してみせます。マスターはそのままアクセルを緩めずにお進みください」




