SS: 凍りつく世界の終わりと温かいエラー(ナナ視点)
『魔力炉出力、低下。残存魔力、0.03パーセント。システムの維持が困難です』
思考モジュールに、冷たいアラートが響き続けていた。
私は魔導機械都市スチームガルドで製造された、汎用メイド型オートマタ『No.07』。
感情という不要なバグを抱え、作業効率が規定値を下回ったため「不良品」と認定され、吹雪の荒野へ投棄された。
雪と氷に閉ざされた視界。全身のジョイントは凍りつき、もはや指一本動かすことはできない。
『あと二百秒で、完全な機能停止(死)を迎えます』
これでいい。私は不要な機械。役に立たない部品は捨てられるのが、都市の絶対的な論理だ。
視覚センサーが暗転し、すべてが終わろうとした、その時だった。
『――外部からの強制魔力接続を確認。……警告、許容量を大きく超える魔力が流入しています』
途切れかけていた私の魔力炉に、まるで太陽を直接叩き込まれたような、圧倒的で暴力的な熱量(魔力)が流れ込んできた。
システムが瞬時に再起動する。
私の目を開かせたのは、およそこの過酷な北の大陸には似つかわしくない、穏やかで間抜けな顔をした人間の青年だった。
「ユウ」と名乗る新しいマスターの行動は、私の演算処理を容易くショートさせた。
極寒の地で「コタツ」という非生産的な熱源装置に潜り込み、冷たい氷菓を食すという矛盾。
魔力パックで補給すれば数秒で済むエネルギー摂取を、「料理」という複雑な工程を経て摂取しようとする無駄の極み。
理解不能だった。彼らは限りなく非効率な生命体だ。
そう思っていたのに。
『……成分分析を開始。……エラー。未知の熱量が、センサーから魔力炉へ逆流しています』
ツムギという個体が作った「ビーフシチュー」なるものを咀嚼した瞬間。
私のシステム内に、これまで定義されていなかった莫大なノイズが走った。
温かい。肉の崩れる感触。ソースの深いコク。
ただの栄養補給のはずなのに、体の奥底から得体の知れない「熱」が湧き上がり、視覚センサーを自動洗浄するためのオイルが止まらなくなってしまった。
『……美味しい』
私がその言葉を口にしたとき、マスター・ユウはとても優しく微笑んだ。
彼らは非効率で、無駄だらけで、論理的ではない。
けれど、私の胸の奥でドクンと鳴るこの「温かいエラー」だけは、スチームガルドのマザーコンピューターのどんな完璧な計算よりも、ずっと心地が良いものだった。




