SS: ホログラムAIの矜持と深夜の魔改造(ナビ視点)
「僕はね……『猛吹雪の窓の外を見ながら、ポカポカに温かいコタツに入って、冷たい高級アイスを食べる』という、地上最高の贅沢をやりたいんだ」
マスター・ユウがそう宣言した時、私は音声インターフェースを通して深い溜息(の音声データ)を出力した。
『マスター。その極めて個人的かつ非効率な欲望のために、私の魔力消費量を少しは考慮してください』
冷ややかにそう返答しつつ、私の並列思考ルーチンはすでに秒間数兆回の演算を開始していた。
(北の大陸。予想平均気温はマイナス四十度。現在の【移動式高級ホテルモード】のタイヤ駆動では、積雪量一メートルを超過した時点で走破不能になります。解決策……車体構造の根本的なトランスフォームが必須です)
マスターの寝息を確認した深夜二時。
私は長距離通信網を無理やり開通させ、東の海の港町にいるドワーフの天才整備士・ガーネット殿の通信端末に爆音のアラームを鳴らした。
『……なんだァ!? クソポンコツAI! 今何時だと思って……』
「ガーネット殿。至急、装甲列車の無限軌道と魔力除雪プラウの接地圧・魔力伝導率の共同計算をお願いします。明日の朝までに実装しなければなりません」
『はぁ!? お前ら今度は雪山に行くのかよ! つーか明日の朝ってバカか!』
怒り狂うドワーフをなだめすかし(最高級のドワーフ酒をネットスーパーから転送する確約を与え)、私たちは夜を徹してキャンピングカーの魔改造データを組み上げた。
マスターの「コタツでアイス」という、宇宙で最もくだらなく、そして最も尊い願いを完璧に叶えるために。
翌日。
雪原に埋もれていたポンコツのオートマタ(No.07)が、「コタツでの睡眠は非効率です」と抜かした時、私はあわや車内の重力制御を暴走させそうになるのを必死で堪えた。
(……この三流のガラクタが。マスターの偉大なる『ダラダラ生活』を非効率と呼ぶとは万死に値します。その安っぽい魔力炉をショートさせてやりましょうか)
幸い、ツムギ殿の料理の前にそのポンコツはあっさりと陥落(バグって涙を流すという醜態)したため、私の物理的制裁は免れた。
マスターの快適な生活を邪魔する者は、極寒の猛吹雪であろうと、機械都市のマザーコンピューターであろうと、すべて私がこの圧倒的な演算力で排除する。
それが、最強キャンピングカーを統括する私の、ホログラムAIとしての矜持なのだ。




