SS: コタツと雪原と呆れ(ルナ視点)
「……本当に、この男の『欲望への執念』だけは、大賢者の魔法よりタチが悪いわね」
私はポカポカに温まったコタツの中でみかんの皮を剥きながら、呆れ半分、感心半分でため息をついた。
猛吹雪が吹き荒れる北の大陸。本来なら、こんな場所は熟練の冒険者パーティでも命を落としかねない死地だ。
にもかかわらず、ユウのキャンピングカーは『重装甲列車モード』とかいう、とんでもない装甲と無限軌道を身にまとい、雪原を平然と爆走している。
その理由が「雪景色を見ながら、温かいコタツでアイスが食べたい」というのだから、頭を抱えたくもなる。
魔王の討伐でも、世界の危機でもない。ただの『贅沢』のために、この男は規格外の魔導アーティファクト(キャンピングカー)の構造そのものを進化させてしまったのだ。
「ルナちゃん、ルナちゃん。このチョコミントアイス、すっごく美味しいよ! 食べなよ!」
「……はいはい。ツムギが作ったんだから美味しいに決まってるでしょ。大賢者様はちょっと黙ってて」
私の隣で、大賢者ソフィアが子供のようにアイスを頬張っている。聖女のセリスも「コタツ、素晴らしいですね……」と完全に堕落した顔で溶けていた。
窓の外では恐ろしい吹雪が吹き荒れているというのに、車内は信じられないほど平和で、温かくて、甘い匂いが充満している。
「まったく、こんな過酷な環境でスローライフを満喫してるのなんて、世界中探しても私たちくらいのものね」
私は剥き終わったみかんを口に放り込んだ。
甘酸っぱい果汁が広がり、コタツの熱で緩んだ体を心地よく満たしていく。
そうして平和なコタツ時間を堪能していると、ふいに車が停止し、ユウが雪原の中から「ナナ」というポンコツなオートマタを拾ってきた。
なんでも「効率至上主義」で「感情は無駄」だとか言っていたけれど、ツムギの熱々ビーフシチューを一口食べた瞬間、顔を真っ赤にしてショートしてしまった。
「……ま、あの子もすぐに私たちみたいな『ポンコツ』になっちゃうんでしょうね」
私は新しいみかんに手を伸ばしながら、コタツの向こうでナナの口の周りを拭いてやっているユウの横顔を見つめた。
どんな冷たい雪原でも、どんな機械の心でも。この男の「温かいスローライフ」に巻き込まれれば、絶対に抗えはしないのだから。




