第190話: 魔導機械都市を目指して
結局、ナナは用意されたビーフシチューを三杯もおかわりした。
消化器官がどうなっているのか不思議だったが、彼女の魔力炉は取り込んだ食事のエネルギーを完璧に変換(あるいは吸収)できるらしい。
『……驚異的なシステム変化を確認。魔力炉の出力が、規定値の百二十パーセントに上昇しています。非効率な「食事」が、これほどのエネルギー効率を生み出すとは、計算外でした』
食後の熱いお茶(ネットスーパー産)を両手で包み込むように持ちながら、ナナは不思議そうに呟いた。
その口調は相変わらず平坦だが、どこかホッとリラックスしているように見えるのは気のせいだろうか。
「美味しかった?」
『……はい。非常に非効率的で……素晴らしい時間でした。ありがとうございます、マスター・ユウ、マスター・ツムギ』
ペコリと頭を下げるナナを見て、ツムギが「えへへ」と照れくさそうに笑う。
「それにしても、こんなに精巧で感情……みたいなものまで持ってる子を、なんで廃棄処分なんかしたのかしらね」
「おそらく、その『感情』こそが理由じゃないかな」
ルナの疑問に、僕は答えた。
「超効率で管理されてる都市にとって、無駄な感情や『美味しさ』にバグを起こすような個体は、不良品として扱われたんだと思う」
『肯定します。スチームガルドにおいて、不要な演算リソースを消費する個体は、マザーコンピューターによって初期化、または廃棄の対象となります』
ナナの言葉に、車内が少しだけ静まり返った。
すべてが機械と計算だけで決められる冷たい街。食事の喜びも、温かいコタツの幸せも存在しない世界。
「よし、決めた」
僕は空っぽになったシチューの皿を置き、立ち上がった。
「次の目的地は、ナナの故郷に行こう。魔導機械都市スチームガルドだ」
『推奨しません、マスター・ユウ。あなたたちのような非効率な存在は、都市の防衛システムに排除される確率が高いです』
「ふふっ。あんたたち機械に、美味しいご飯の味とコタツの魔力を教えてやるのも悪くないわね。それに、ウチのナビは優秀よ?」
ルナがニヤリと笑う。
「その通りです。あのような三流のマザーコンピューターなど、私の演算力で数分で論破してみせます。マスターのダラダラ生活を邪魔する者は許しません」
ナビが珍しく好戦的な声を出した。同じAIとして、マザーコンピューターのやり方が気に入らないらしい。
「そういうわけだから、道案内よろしくね、ナナ」
『……理解不能です。ですが、現在の私のマスターはあなたです。命令に従い、スチームガルドへの最適ルートをナビゲーションします』
ナナの青い瞳が、少しだけ温かい光を帯びたように見えた。
ズドォォォォンッ!
キャンピングカーの『重装甲列車モード』が、再び野太いエンジン音を響かせる。
巨大な除雪プラウが猛吹雪を切り裂き、僕たちは未知なる機械都市を目指して、雪原を爆走し始めた。
(第19章 完)




