第189話: 謎のエラー(感動の味)
「「「いただきます!!!」」」
僕たちは一斉にスプーンを持ち、熱々のビーフシチューを口に運んだ。
「はふっ、ふぁぁ……っ! お、美味しい……!」
ルナが感極まったような声を出す。
濃厚なデミグラスソースのコクが口いっぱいに広がり、その直後、よく煮込まれた霜降り肉が舌の上でトロリと溶けた。
ヤバい。これは本当に旨味の暴力だ。
冷え切った体が芯から温まり、幸せなため息が自然と漏れる。
「……そこの機械の娘よ。見ているだけではつまらぬじゃろう。ほれ、あーんじゃ」
ソフィアが自分のスプーンで肉と野菜を掬い、コタツの端に正座しているナナの口元へと差し出した。
『……不要です。私のシステムに食物を消化する機能は……』
「いいから、騙されたと思って一口食べてみなよ。成分分析だと思ってさ」
僕がそう後押しすると、ナナはわずかに躊躇った後、カシャッと口を開き、ソフィアのスプーンをくわえ込んだ。
ゆっくりと、機械的な動きで咀嚼を始める。
『……成分分析を開始。アミノ酸、グルタミン酸、その他未知の脂質成分を確認。……これは……』
ピタッ、と。
ナナの咀嚼が止まった。
彼女の青い瞳孔が大きく見開かれ、胸の魔力コアがドクン、ドクンと激しく明滅を始める。
『……エラー、発生。分析……不能。未知の熱量が、味覚センサーから魔力炉へ逆流しています。私の、システム領域が……』
「ど、どうしたんよ? まずかったでござるか!?」
ツムギが慌てて身を乗り出す。
ナナはゆっくりと首を振った。
『いえ。……これは、なんなのでしょうか』
ツツーッ、と。
無表情なナナの目から、一筋の透明な液体がこぼれ落ちた。
『エラーです。視覚センサーの洗浄用液体が、制御不能な状態で排出されています。私は心を持たない機械のはずなのに……なぜか、とても……温かいです』
「……それはね、ナナ。ご飯が『美味しい』からだよ。美味しいものを食べると、心も体も温かくなるんだ」
僕が優しく微笑みかけると、ナナは自分の頬を伝う涙を不思議そうに指で拭い、もう一度、鍋の中のシチューをじっと見つめた。
『……美味しい。……これが、食事。……マスター・ユウ。もう一口、成分分析を要求してもよろしいでしょうか』
「もちろん。たくさんあるから、いっぱい食べていいよ」
こうして、超効率至上主義だったはずのメイド型オートマタは、ツムギの熱々ビーフシチューの前にあえなく陥落し、「美味しい食事の虜」へと変貌を遂げたのだった。




