第188話: 伝説の調理器具と熱々のシチュー
効率と無駄の定義について、ナビとナナが高度な電子戦(口喧嘩)を繰り広げそうになったその時だった。
「……まぁ待つんよ。食事が非効率で無駄なことかどうかは、拙者の料理を食べてから判断してほしいんでござる」
コタツの魔力からなんとか這い出したツムギが、自信に満ちた笑みを浮かべてキッチンへと向かった。
オートマタの少女に「食事の喜び」を全否定され、料理人としての魂に火がついたらしい。
ツムギが取り出したのは、第4部の『食の祭典』で優勝賞品として手に入れた『伝説の魔導調理器具セット』の一つ。
使用者の魔力と意思に呼応して、絶対に食材を焦がさず、最高の火力を維持する『炎の出力自動調整フライパン』だ。
「これだけ寒い外から来たんでござるから、極上の『熱々』を作るんよ!」
まな板の上に用意されたのは、豊穣の森で狩った『ビーフ・ミノタウロスの霜降り肉』。そして温泉郷ユクムラで手に入れた幻の山菜や根菜類だ。
包丁が軽快なリズムを刻み、瞬く間に食材が切り分けられていく。
そして、熱したフライパンにバターが落とされた。
ジューーーーーッ!!
食欲を刺激する激しい音と共に、バターが焦げる芳醇な香りが車内に弾ける。
そこに厚切りの霜降りビーフが投入されると、肉の焼ける暴力的な匂いが加わった。
『……未確認の微粒子(匂い)の充満を検知。マスター・ユウ、これは毒ガス攻撃の一種ですか? 私のシステムに謎のノイズが走っています』
ナナが微かに首を傾げ、鼻をひくひくと動かしている。
「いや、違うよナナ。それが『美味しそう』っていう感覚の始まりだよ」
「ユウの言う通りじゃ! ああっ、ツムギよ! 早く、早くその肉をわらわの口に運ぶのじゃ!」
肉の表面がカリッと焼き上がり、旨味が完全に閉じ込められたところで、ツムギは赤ワインとネットスーパーの『特製デミグラスソース』を一気に流し込んだ。
グツグツと音を立ててソースが煮立ち、濃厚で深いコクのある香りが湯気となってリビングを包み込む。
最後に根菜を加え、魔力で圧力をかけて一気に煮込むこと数十分。
「お待たせしたんよ! 極寒の地でこそ輝く、究極の『熱々ビーフシチュー』の完成でござる!」
テーブルの中央に、湯気をもうもうと立てる大きな鍋が置かれた。
濃厚なソースの海の中で、霜降りビーフがホロホロに崩れかけているのが見える。
外の荒れ狂う猛吹雪の音と、目の前にある極上の温かい食事。そのコントラストだけで、すでに気絶しそうなほどの贅沢だった。




