第187話: 効率至上主義のオートマタ
青い瞳を開いたメイド姿の少女は、瞬きを一つすると、ゆっくりと上半身を起こした。
ギィ、と関節からわずかに機械的な音が鳴る。
『システム再起動完了。各部異常なし。……対象者を確認。あなたは誰ですか?』
感情の全くこもっていない、平坦な声だった。
「僕はユウ。君が雪の中で凍りついて機能停止しかけていたから、引き上げて魔力を補充したんだ」
僕がそう答えると、少女は首をかしげるようにして周囲の仲間たち(ルナやセリスたち)を順番にスキャンするように見つめた。
『状況を理解しました。救助行為に対し、感謝のプロトコルを実行します。……ありがとうございます』
言葉こそ丁寧だが、その表情には微塵の感情も浮かんでいない。
「君は、なんて名前なの? どこから来たの?」
『私は、魔導機械都市スチームガルドで製造された、汎用メイド型オートマタ。製造番号はNo.07(ナンバーセブン)です。マスター(所有者)は……現在不在。廃棄処分対象となり、都市の外へ投棄されました』
廃棄処分。その言葉に、ルナやララが悲しそうな顔をする。
いくら機械とはいえ、こんな猛吹雪の中に捨てるなんて。
「じゃあ、セブン……ナナって呼んでいいかな。とりあえず、ここは寒いし、リビングに行こう。コタツに入って、何か温かいものでも食べる?」
僕が優しく手を差し伸べると、ナナは不思議そうな顔(表情筋は動いていないが、瞳孔が収縮した)で僕の手を見つめた。
『不要です。オートマタに「食事」による熱量摂取は、非効率の極みです。私は魔力パックの補給、または今回のような直接の魔力供給のみで完全稼働が可能です』
「いや、そうじゃなくて。美味しいものを食べると、心も温まるからさ」
『「心」という概念は、私のシステムにはインストールされていません。また「美味しい」という味覚的刺激をエネルギー変換する機構も無駄です』
見事なまでの『効率至上主義』だった。
食事はただのエネルギー補給であり、楽しむ意味などないと言い切る彼女に、ツムギがピクリと眉を動かしたのがわかった。
『それに、その「コタツ」と呼ばれる狭い熱源装置の内部で複数の生体反応が停止状態になっているのを先ほどから観測していますが、極めて非生産的で無駄な行動と思われます』
ナナの正論すぎる言葉に、コタツの魔力に敗北したルナとカエデが「うっ……」と呻き声を上げた。
「……ナナさんと言いましたか」
スピーカーから、ナビの冷ややかな声が降ってきた。
「当車両のマスターは、その『非生産的で無駄な行動』を至上の喜びとする、極めて非効率的な生命体です。ですが、それこそがマスターの偉大さなのです。下等な量産型オートマタの貴女には理解できないでしょうが」
『音声AIを確認。……あなたの演算リソースの大半が、「室温の0.1度単位の調整」と「マッサージチェアの圧力計算」に使われているようです。理解不能です』
ナビとナナ。
ホログラムAIとオートマタによる、静かで冷たい「機械同士のレスバ」が始まった瞬間だった。




