第186話: 機械の少女との遭遇
ガチャン、と重い音を立てて、カーゴルームの床に氷の塊が下ろされた。
急激に冷気が車内に流れ込んでくるが、すぐに空調システムがフル稼働し、室温を保ってくれる。
「ひぃっ、冷たい! なにこれ、完全に氷漬けじゃない!」
ルナが身震いしながら氷に顔を近づける。
透明な氷の中には、丸まった状態で凍りついている「人間」らしき姿があった。
「ツムギ、氷を溶かせるか?」
「任せるでござる。……はぁっ!」
ツムギが『伝説の魔導フライパン』を取り出し、魔力を込める。
そこから放たれる優しくも強力な熱波が、氷の塊をみるみるうちに溶かしていく。ビチャビチャと水滴が床に落ち、排水溝へと吸い込まれていく。
やがて氷が完全に溶け落ちると、そこには――。
「……女の子?」
セリスが驚いたように呟いた。
雪のようによく透き通った白い肌に、銀色の長い髪。
身につけているのは、あちこちが破れてボロボロになった、クラシカルなデザインの「メイド服」だった。
「いや、違うな。よく見てみろ」
僕の言葉に、みんなが顔を近づける。
一見すると美しい人間の少女に見えるが、首元や関節の部分に、精巧な金属の継ぎ目が見えた。
さらに、彼女の左胸のあたりには、微かに明滅する青い水晶のようなものが埋め込まれている。
「……オートマタ(自動人形)じゃな」
ソフィアが真妙な顔で告げた。
「古代の魔導科学の遺物……あるいは、北の大陸の『機械都市』で作られた存在かもしれん。しかし、ここまで人間に近い精巧な作りは珍しいぞ」
「マスター。対象の胸部にある魔力コアの反応が、消滅寸前です」
ナビの緊迫した声が響く。青い水晶の光が、今にも消えそうにチカチカと明滅していた。
「魔力切れか! 僕の魔力を直接流し込めるかな?」
「理論上は可能です。対象のコアに直接手を触れ、マスターの魔力を注ぎ込んでください」
僕は急いで少女の隣に膝をつき、彼女の胸の水晶に手を当てた。
冷たい。まるで本物の氷を触っているかのようだ。
「いくよ……っ!」
僕は自分のユニークスキルから生み出される規格外の魔力を、少しずつ、慎重に彼女のコアへと流し込んだ。
ドクン、と。
機械のはずの少女の体から、脈打つような振動が伝わってくる。
数秒間、魔力を注ぎ続けた後。
『ピピッ……魔力供給を確認。コアの再稼働シーケンスを開始します』
少女の口から、無機質な機械音声が漏れた。
そして、長く美しい銀色のまつ毛が震え、ゆっくりと、その冷たい青色の瞳が開かれた。




