第182話: 極寒の北の大陸上陸
美食都市グルメンティアを出発してから数日。
僕たちを乗せたキャンピングカーは、西の大陸の北端から海を越え、ついに目的の『北の大陸』へと足を踏み入れた。
景色は一変していた。
緑豊かだった大地は完全に姿を消し、視界の果てまで見渡す限りの純白。そして、荒れ狂う猛吹雪が世界を支配している。
「現在の外気温、マイナス四十二度。風速は秒速三十メートルを超えています。通常の生物であれば、数分で呼吸器が凍りつき、生命活動を停止するでしょう」
スピーカーから流れるナビの報告は、外の景色と同じくらい冷ややかだった。
窓ガラスには、石のように硬くなった雪が凄まじい勢いで叩きつけられ、バラバラと音を立てている。
「うわぁ……見てるだけで凍えそうなんよ」
窓枠に張り付いて外を眺めていたツムギが、ブルッと身震いをして自分の腕を摩った。
「結界がなければ、私たちも一瞬で氷の彫像ですね。……マスター、本当にこんな場所に長居するおつもりですか?」
「うん。だって、このギャップがたまらないじゃないか」
窓の外の地獄のような光景を横目に、僕はグラスに入った冷たい麦茶をグビッと飲み干した。
ちなみに今の僕の格好は、Tシャツに短パンである。
キャンピングカーの『移動式高級ホテルモード』は伊達ではない。
外がどれだけ絶対零度に近い吹雪であろうと、完璧な断熱結界と、ナビがミリ単位で調整する魔力空調システムによって、車内は常に春の陽気のようなポカポカの気温(二十四度)に保たれているのだ。
「それにしても、結界が弾く雪の量が尋常ではないぞ。さすがの『おうち』でも、これだけ雪が深いと走りにくいのではないか?」
ソフィアが言う通り、キャンピングカーの巨大なタイヤが、腰の高さまである新雪に足を取られ始めていた。
いくら魔導エンジンが強力でも、このままでは雪に埋もれて立ち往生してしまう。
「マスター。現在のタイヤ駆動による走破効率が、規定値を大きく下回りました。このままでは、目的地である都市部への到着が大幅に遅れます」
「あー、やっぱり? さすがにこの雪はノーマルタイヤ(魔力強化済み)じゃキツイか。どうする? 一旦浮遊モードで飛ぶ?」
「いえ、それでは『北の大陸を旅している』というロマンが欠如します。……マスターのくだらない欲望を満たすため、すでに東の海の協力者と共同で、新型の変形シークエンスを構築済みです」
「えっ、いつの間に?」
僕が驚くのと同時に、モニターの端にノイズが走り、見慣れたドワーフの顔が映し出された。
『……くっそ、あのクソポンコツAIめ! なんでアタシがこんな時間に叩き起こされて、寒冷地仕様の接地圧計算なんかさせられてんだよ!』
「ガーネット殿、文句を言う前にデータを送布してください。マスターが早くコタツに入りたがっています」
どうやらナビは、僕が寝ている間にガーネットを巻き込んで、キャンピングカーの新たな魔改造を済ませていたらしい。




