第174話: ライバルは三ツ星シェフ?
圧倒的な売上成績で予選を突破した翌日。
僕たちは、祭典の運営委員会から『本戦出場者のみの顔合わせ会』へと招待されていた。
会場となる豪華なサロンには、世界中から集まった、いかにも只者ではないオーラを放つ料理人たちが集結している。
「あー……なんか、みんなすごい包丁とか持ってるんよ。ウチ、ちょっと場違いやないかな……」
「大丈夫だよツムギ。君の腕前(と僕のネットスーパー)なら、ここで並んでいる誰にも負けないさ」
緊張して小さくなっているツムギを励ましながら、僕は周囲を見渡した。
すると、サロンの中央で周囲の料理人たちから尊敬と畏怖の眼差しを向けられている、一人の人物に気がついた。
「あれは……エルフ?」
「うむ。ただのエルフではないな。微かじゃが、かなりの魔力量を内包しておる。何らかの属性魔法を高位で扱えるはずじゃ」
ソフィアが目を細めて分析する。
そのエルフは、真っ白な料理服を身にまとい、長い金髪を優雅に縛っていた。見た目は若く美しい男性だが、その瞳には何百年も料理技術を探求し続けてきたような、深く静かな炎が宿っている。
「彼は『レオン・クロイツ』……この美食都市で、唯一最高位の三ツ星称号を持つ天才シェフだよ」
「ひゃあ!? 三ツ星!? グルメンティアのトップなんよ!?」
ルナの解説に、ツムギが悲鳴のような声を上げる。
すると、その声に反応したのか、エルフのシェフ・レオンがゆっくりとこちらに向かって歩み寄ってきた。
「君が、昨日の予選で『圧倒的な未知の香辛料』を使って売り上げ一位を記録したという、ヤマトの料理人だね?」
レオンの声は冷たく澄んでいたが、そこに敵意や見下すような響きはなかった。あるのはただ、純粋な『料理への探求心』だけだ。
「は、はい! ツムギなんよ! よ、よろしくお願いするけん!」
「……ツムギ。僕はずっと探していたんだ。この世界に存在するすべての旨味を組み合わせても到達できない、『次元の違う味』を」
レオンは、ツムギの手を両手で優しく、だが力強く握りしめた。
「君の使ったあの黒い粘性のあるソース。あれは間違いなく、私の未完成な料理を次のステップへと進めるための『鍵』だ。……お願いだ、私に料理を教えてくれないか?」
「…………えっ?」
「ええっ!?」
僕もルナも、そして周囲にいた他の料理人たちも、一斉にずっこけた。
天才三ツ星シェフからの、まさかの「宣戦布告」ではなく「教えを乞う」展開。
どうやら彼は、嫌味なライバルキャラではなく、ただ純粋すぎるだけの『料理バカ』らしい。
僕たちのスローライフの旅では、本物の悪人など早々出てこないのだ。




