第173話: 予選:屋台飯の革命
数日後。食の祭典の予選当日。
グルメンティアの巨大な大通りは、数百軒もの屋台がひしめき合い、凄まじい熱気に包まれていた。
制限時間内に一番多くの売上を叩き出した上位数名だけが、本戦のコロシアムに進めるという過酷なルールだ。
「大魔法使いのオーブン焼き肉はいかがかなー!」
「西の大海原で獲れた伝説の海竜のスープだよっ!」
周囲の屋台からは、見たこともない高級食材を使ったド派手な料理が次々と振る舞われている。
そんな中、僕たちの陣取る屋台――というか、キャンピングカーから直接引き出した『外部展開式アウトドア・キッチン』の前で、ツムギは静かに、そして楽しそうに鉄板を温めていた。
「よし、師匠! ネットスーパーのお取り寄せ、お願いなんよ!」
「了解。今回使うのは……これだね」
僕が虚空(ネットスーパーの画面)から取り出し、厨房の棚にズラリと並べたのは、見慣れた茶色いラベルのボトル。
現代日本の生み出した、究極のB級グルメ調味料――『濃厚・お好み焼きソース』と『中濃ソース』の山である。
「異世界の人たちは、まだこの『ソースの暴力』を知らないけんね。屋台のB級グルメなら、ヤマト(日本)の右に出る者はおらんのよ!」
ツムギが鉄板に油を敷き、ヤマトで仕入れた大量のキャベツ(千切り)、そして道中で狩ったオークの豚肉(細切れ)、さらにグルメンティアの市場で安く仕入れた『コシの強い小麦粉の太麺』を一気に投入した。
ジュゥゥゥゥゥッ!!!
鉄板の上で、食材がリズミカルに踊る。
そしてツムギが、仕上げにたっぷりのソースを一気に上からかけ回した瞬間。
「な、なんだあの凄まじく食欲をそそる匂いはッ!?」
「甘くて、スパイシーで……焦げる匂いだけでヨダレが止まらねぇ!」
ソースが鉄板で焼ける反則級の魔性の香りが、大混雑する周囲一帯の空気を完全に支配した。
高級食材の繊細な匂いなど、この圧倒的な『ソースの匂い』の前にはすべてかき消されてしまう。
「はいお待ちどうさま! 『ヤマト風・極上ソース焼きそば(目玉焼き乗せ)』なんよーっ!」
ルナやセリス(可愛い売り子姿)の掛け声とともに、僕たちの屋台にはあっという間に数百人規模の大行列ができた。
一口食べた客たちは皆「なんだこの複雑な甘辛さは!」「麺と絡んで最高だ!」と涙を流しておかわりを要求する。
結果を言うまでもなく。
圧倒的な『ソースの暴力』と手軽さ、そして安さにより、僕たちのキャンピングカー屋台は他を寄せ付けないダントツの売上を記録し、余裕のトップ成績で予選を突破したのだった。




