SS: 堕落と温泉とネットスーパー(ユウ視点)
ユクムラでの滞在は、間違いなく異世界に来てから一番の「心休まる」時間だったと思う。
ヤマトにいた時も温泉生活は満喫していたが、今回の『移動式高級ホテルモード』と『最強の出張シェフ(ツムギ)』のタッグは、反則級の快適さを生み出していた。
「……ふわぁ。なんか、毎日が日曜日みたいだなぁ」
助手席で欠伸をしながら、僕はキャンピングカーの窓から流れる景色を眺めていた。
ルナやソフィアは後ろのリビングで(また)マッサージ機を取り合っている。料理対決で大勝利を収めたツムギは、上機嫌で新たなおやつの試作中だ。
「しかしユウ様。あのように貴重な……いえ、ユウ様にとっては安価な調味料(白だし)であっても、見ず知らずの料理人に気前よくお渡しして良かったのですか?」
セリスがお茶を淹れてくれながら、少し心配そうに聞いてくる。
「うん。だって、あの料理長も彼がいきつけのネットスーパー……じゃないや、市場も、別に敵じゃないからね」
僕は微笑みながら答えた。
「美味しいものの作り方を共有すれば、次にあの温泉街に行った時、きっともっと美味しいご当地グルメが食べられる。僕の目的はお金を稼ぐことでも、世界を征服することでもない。『美味しいご飯を食べてのんびり生きる』ことなんだから、周りの人が美味しい料理を作れるようになるのは、僕にとっても最高のメリットなんだよ」
「ふふっ。ユウ様らしい、実に優しくて……食いしん坊な理由ですね」
セリスも納得したように、柔らかく笑った。
世界は広い。
まだまだ僕も知らない無限の調味料と食材が、あの画面の向こうに眠っている。
ツムギの料理の腕と、僕のスキル。この二つが合わさっていれば、これからの旅でもきっと、世界中の人たちの胃袋を驚かせることができるだろう。
次なる目的地『美食都市』への期待に胸を膨らませ、僕はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。




