第170話: 胃袋を掴んだキャンピングカー
料理対決の翌朝。
温泉郷ユクムラの入り口には、僕たちの出発を見送るために、旅館「陽だまり亭」の従業員たち――いや、噂を聞きつけて集まった他の旅館の料理長たちまでが集結していた。(大名行列でも見送るような騒ぎだ)
「ツムギ先生! 教えていただいた『特製・めんつゆ』の配合、当館の家宝にいたします!」
「白だしのストック(ネットスーパーで大量手配して原価で卸した)も、大事に使わせてもらいますぞー!」
「みんなー! 元気でねーっ! また美味しいもの作ろーね!」
窓から乗り出して手を振るツムギに対し、屈強なドワーフの料理長をはじめとするユクムラの料理人たちが、涙ながらに手を振り返している。
たった一泊で、この温泉街全体の「胃袋」と「心」を完全に牛耳ってしまったようだ。天才シェフと現代調味料の組み合わせは、異世界において歩く国家機密レベルの兵器に近い。
「まぁ、レシピは教えたけど……『白だし』自体はユウの魔法がないと作れないから、これでユクムラのみんなも、僕らのキャンピングカーにおいでを振る(贔屓にする)しかなくなったってわけだね」
助手席で、ルナが悪い笑顔を浮かべている。
「うん。でも、彼らならきっと自分たちで現地の食材を使って『新しい出汁』を完成させると思うよ。そういう探究心のある料理長だったからね」
ただチートで美味しいものをあげるだけではなく、その世界の食文化が少しずつ進化していくのを見るのも、この旅の楽しみの一つだ。
『マスター。温泉郷ユクムラを通過。これより、本格的に西の大陸・中央エリアへの横断ルートに入ります』
ナビのアナウンスが響く。
キャンピングカーの荷台には、昨日のお礼として大量に持たされた現地の名産品(山菜、黒豚の燻製、お酒など)がギッシリと積まれていた。
「さて、次はどんな美味いもんが待ってるかのぅ。わらわの食後のデザートは、まだまだ足りておらんぞ!」
「あはは、任せてなんよソフィアちゃん! 次の目的地は、何十日も走った先にある『美食都市グルメンティア』! 世界一の厨房なんよ!」
ツムギがエプロンをきゅっと結び直し、元気にガッツポーズをした。
「よーし、いざ美食都市へ! 温泉で癒やされた分、しっかり食べて、いっぱい寝て、のんびりいこう!」
「「「おーっ!!」」」
朝の爽やかな日差しの中。
僕たちの『移動式高級ホテル』は、次なる究極の一皿と、最高のスローライフを求めて、再び果てしない一本道を走り始めたのだった。
(第17章 温泉郷と幻の珍味編 完)




