第168話: いざ、実食審査
陽が沈み、温泉街にランタンの灯りが灯り始めた頃。
老舗旅館『陽だまり亭』の最も広い広間には、異様な熱気といい匂いが充満していた。
審査員として並んで座るのは、僕たち一行と、旅館の女将や若手の料理人たちだ。
「それではこれより、『幻の山菜』を使った料理勝負の審査を始めるぞい!」
ふかふかの座布団に座った旅館の女将(恰幅の良いヒューマンのお婆ちゃん)の合図で、まずは総料理長であるドワーフが自信満々に大皿を運んできた。
「アシの誇る『幻の山菜とユクムラ特産黒豚の塩煮込み』だ! ハーブと天然塩でえぐみを抑え、豚肉の脂でコクを出した。食ってみやがれ!」
一人ひとりに小鉢が配られる。
口に運ぶと……うん、確かに昨日食べたものと同じく、素晴らしい完成度だ。
山菜のシャキシャキ感と、豚肉のほろほろと崩れる食感。そして少しピリッとする香草の風味が、肉の甘みを引き立てている。
「うむ。美味いぞ!」
「あむあむ! おにく、おにくー!」
ルナやララも美味しそうに頬張っている。旅館の従業員たちも「さすが料理長だ」と感嘆の声を上げていた。
「ふん。どうだ小娘、この完成された完璧な味に、まだ文句があるか?」
「うんっ、本当に美味しいと思うんよ!」
ツムギは自分の分の煮込みをペロリと平らげると、にっこりと笑って立ち上がった。
「素材の扱い方は、ウチから見ても本当に勉強になるんよ。……でも、やっぱり『旨味のベース』の作り方なら、ウチ(と師匠)の方が少しだけ上やと思うけんね」
「なんだと……っ!?」
ドワーフの料理長が眉を吊り上げる中、ツムギはパチンと指を鳴らした。
ドゴォォォォンッ!
広間の障子が勢いよく開き、ポチ(巨大化モード)の背中に乗せられた巨大なおひつと、大鍋が運び込まれてきた。
「じゃじゃーん! ツムギ特製、『白だしベースの山菜お浸し付き・極厚豚丼(とろとろ温泉卵乗せ)』なんよーっ!!」
蓋を開けた瞬間。
鰹と昆布による圧倒的で暴力的な『和風出汁』の香りが、広間全体を一気に支配した。
「な、なんだこの香りはッ!?」
「こんな深みのある匂い……今まで嗅いだことがないぞ!?」
旅館の料理人たちが一斉にざわめく。
大皿の煮込みで勝負してきた相手に対し、ツムギが打ち出したのは、なんとガッツリ系の『丼ぶり』だった。しかし、その構成はあまりにも緻密で――そして、反則級に美味そうだった。




