第167話: 秘密のキッチンと特訓
料理対決まで残り数時間となったお昼過ぎ。
ツムギが「最後の大一番なんよ!」とシステムキッチン・プロに籠もっている間、僕たち(僕、ルナ、ソフィア、ララ、セリス)は、申し訳程度に旅館のロビーの手伝い(という名の暇つぶし)をしていた。
「あーあ、あのドワーフのおっちゃんも子供げないよねぇ。ツムギの料理の美味さを知ってれば、最初から頭下げて教えを乞うただろうに」
ルナが、旅館の玄関を水拭きしながら(速すぎて神業の領域に達している)呆れたように言う。
一方、ソフィアはロビーの安楽椅子に深く腰掛け、大賢者のオーラを放ちながらお茶を飲んでいた。
「よいではないか。我らはただ座って、極上の夕食(対決料理)を待てば良いのじゃ。……時にユウよ、ツムギは何を作っておるのだ?」
「さぁね。でも、ヤマトの卵とキャンピングカーのお風呂……ヒノキ風呂の方じゃなくて、給湯器の温度管理システムを使った『何か』を仕込んでいるみたいだよ」
「ふむ。キャンピングカーの魔導温水器を料理に使うとは……やはりあやつ、ただの小娘ではないな」
ヤマトにいた時から、ツムギの「現代知識の吸収力と応用力」はすさまじかった。僕が少し説明しただけで、ネットスーパーの調味料や家電の特性を完全に理解し、異世界の食材と組み合わせてしまうのだ。
「ユユー、ツムギちゃんのごはん、またお肉あるかなぁ?」
「ララ、お肉ばっかり食べてるとお腹壊すよ。今回は山菜の対決だからね」
尻尾を振るララを撫でながら、僕は厨房から漂ってくるかすかな匂いに鼻をヒクつかせた。
カツオ出汁の、上品でホッとする香り。
でもそれだけじゃない。ほんのりとお肉の焼ける美味しそうな匂いと、甘辛い醤油の香りも混ざっている。
「……あいつ、まさか」
僕はツムギの作戦に気がつき、思わずニヤリと笑った。
ただの『山菜料理』の枠に収まる気はないらしい。彼女は「幻の山菜」の風味を最大限に生かしつつ、審査員(僕たちと旅館の従業員)の胃袋にガツンとくる『本命の一皿』を叩きつけるつもりなのだ。
夕暮れが近づき、温泉街全体がオレンジ色の優しい光に包まれていく。
いよいよ、異世界の老舗料理長vs現代調味料×ヤマトの天才シェフの、平和で熱い実食審査の幕が開こうとしていた。




