第166話: 平和な料理対決の勃発
翌朝。
旅館の駐車場に停めたキャンピングカー(移動式高級ホテルモード)のキッチンでは、早朝から激しい包丁の音が鳴り響いていた。
「トントントン……! ダメなんよ、これじゃあ食感が……もいっちょ!」
ツムギは頭に手ぬぐいを巻き、真剣な表情で『幻の山菜』(昨日、料理長から対決用にドサッと渡された)の下ごしらえに没頭していた。
『ツムギ殿。対象の山菜、アルカリ成分の抽出完了。通常の熱湯処理より5分長く茹でることで、細胞壁の破壊を最小眼に抑えつつ嫌な苦味を抜くことに成功しました』
コンロの下からは、最新型の『システムオーブン』の温度と時間を完璧に管理するナビのアナウンスが響く。
「ありがとうナビちゃん! よォし、下処理は完璧なんよ。あとは……『出汁』やね」
ツムギが振り向くと、ダイニングテーブルに座っていた僕が、ネットスーパーから取り寄せた様々な調味料をズラリと並べた。
「ツムギ、とりあえずヤマトの料理でも使っていた『めんつゆ』と『白だし』、それから『コンソメ』に『鶏ガラスープの素』も出しておいたよ。異世界の山菜に合うのはどれかな?」
「うんっ! 師匠のその『旨味の粉(と液体)』は、本当に魔法なんよ! あの頑固なおじちゃん料理長も、これの本当の凄さはわかってないけんね!」
ツムギは小皿に少しずつ調味料を取り、山菜の切れ端と合わせて味見を繰り返す。
「ふむ……。めんつゆだと、甘すぎて山菜の繊細な香りが飛んじゃうんよ。コンソメや鶏ガラも、お肉の匂いが強すぎて喧嘩しちゃう……」
「なるほど、今回は主張しすぎないベースが必要ってことだね」
ツムギが最後に手に取ったのは、黄金色をした液体の瓶――『極み・白だし(最高級の鰹と昆布の合わせ出汁)』だった。
「……これや! 色が薄いから山菜の綺麗な緑の邪魔をしないし、この『カツオ』っていうお魚と『コンブ』っていう海草の凄まじい旨味が、山菜のえぐみを優しく、完璧に『包み込んで』くれるんよ!」
「よし、ベースは白だしで決まりだね。あとは、どうやって料理長と差をつけるかだ」
ただのお浸し(おひたし)では、いくら白だしが美味しくても、昨日の極上黒豚ステーキなどのインパクトには負けてしまうかもしれない。
「ふっふっふ……師匠。そこはウチの『天才的な閃き』と、このキャンピングカーの『最高のお風呂』が解決してくれるんよ!」
ツムギはニヤリと悪戯っぽく笑い、ヤマトで仕入れた大量の新鮮な卵を取り出した。
彼女の頭の中ではすでに、料理長をギャフンと言わせる『究極の一皿』が完成しているようだ。




