第163話: 大浴場とマッサージの誘惑
「ぷはぁーっ!! やっぱ、旅の疲れにはでっかい風呂が一番だねーっ!」
ユクムラを一望できる大露天風呂(男女別)の中で、ルナが両手を大きく広げて背伸びをした。
岩風呂の造りに、乳白色の滑らかなお湯。
キャンピングカーのヒノキ風呂も最高だが、こうして空の下で手足を思い切り伸ばせる解放感は、やはり本場の温泉地ならではだ。
「うむ。この硫黄を含む湯、魔力の循環を促すのには悪くないぞ。ヤマトの湯とはまた違う趣じゃ」
「ソフィアちゃん、のぼせないようにね。ララ、あっちで一緒に泳ごうー!」
「ユユー! みず鉄砲いくよーっ!」
大賢者と天才シェフ、そして狐の獣人がキャッキャと戯れている。(今回は貸し切りにしているので問題ない)
「はぁ……気持ちいいです。ユウ様たちと出会う前の私が、今の私を見たら、きっと堕落神に魅入られたとでも思うでしょうね……」
セリスが、お湯に浸かりながら幸せそうに目を閉じている。少しだけ頬が紅潮していて、色っぽい。
僕も男湯(ポチと二人きり)で、ゆったりと絶景を楽しんでいた。
――そして、風呂上がり。
広々とした湯上がり処(休憩室)で待っていたのは、旅館自慢の『専属マッサージ師集団による極上のもみほぐしサービス』だった。
「さぁお客様方。当館が誇るマッサージで、日頃の旅の疲れを完全に……」
「あー、いえ。結構です」
しかし、ルナとソフィアは即答で断った。
「えっ? し、しかし、うちはユクムラでも一、二を争う腕前の……」
「いやー、アンタたちが下手ってわけじゃないんだけどさ」
ルナが困ったようにポリポリと頬を掻く。
「うちの車の『ぜんじどうまっさーじき』のモミ玉の圧とピンポイントな温熱機能を知っちゃうと……人間の手じゃ、いまいち物足りないんだよねぇ」
「左様。あれは『人をダメにする魔法の椅子』じゃからな。あの悪魔的な揉みほぐしの後では、いかなる熟練の技も霞むというもの」
二人の正直すぎる(そして旅館への容赦ない)本音に、マッサージ師たちがショックで石と化してしまった。
僕は慌ててフォローに回る。
「あ、いや! キャンピングカーの設備が異常なだけで! せっかくですから、後で僕にたっぷりお願いします!」
異世界の最高級サービスすら「うちの設備の方が上」となってしまう。
キャンピングカーの『移動式高級ホテルモード』、恐るべしである。僕たちは色々な意味で贅沢の極みに慣れすぎていた。




