第162話: 高級旅館とキャンピングカー
温泉郷ユクムラの中心部、最も見晴らしの良い高台に建つそれは、まるで貴族の別荘かと思うほど立派な五階建ての洋風旅館だった。
「ひぇー……すっごい立派な門構えなんよ。絨毯の毛足が、今まで見たどんな床より長いんよ……!」
ツムギが恐縮しながら、ホテルのロビーを見渡している。
出迎えてくれたパリッとした制服の支配人(ヒューマンの初老男性)は、僕たちのキャンピングカー(ホテルの裏手の巨大馬車専用駐車場に停車中)の異様さに少し驚きつつも、プロの笑顔で応対してくれた。
「ようこそ、名湯ユクムラ『陽だまり亭』へ。お客様方は大変立派な馬車(?)でお越しのようですが、本日はご宿泊でよろしいでしょうか? 当館が誇る、最上階のスイートルームが空いておりますが」
「あー……」
僕は少しだけ気まずい思いで、後ろを振り返った。
ルナ、ソフィア、ララ、セリス。全員の顔に「泊まるのはいいけど、ベッドはうちの車のほうが絶対にふかふかだよね」と書いてある。
「……すみません、宿泊はしないで、『立ち寄り湯』と『個室での夕食』だけを楽しみたいんですが、可能ですか?」
「は、立ち寄りとお食事のみ……でございますか? 左様ですか。もちろん可能でございますが……」
支配人は少し面食らった顔をした。
無理もない。こんな超高級ホテルのスイートルームを蹴って車中泊を選ぶ金持ちなど、普通はいないからだ。
「ええ。すみません、うちの馬車、最近『移動式高級ホテルモード』にアップデートしちゃったばかりで……」
「い、いどうしき、ほてる……?」
「あはは、気にしないでください。お風呂を楽しみに来たんです!」
僕は苦笑しながら、財布から十分な額の金貨を支払った。
(あのベッドと全自動マッサージ機の後じゃ、どれだけ高級な旅館の部屋でも見劣りしちゃうからなぁ……)
贅沢な悩みである。僕たちの乗っている家は、もはや異世界の貴族の館にすら勝るレベルのQOL(生活の質)を誇っているのだ。
僕たちは案内係のメイドさんに連れられ、大浴場のある別館へと向かった。
もちろん、部屋には泊まらないが、「世界最高峰のスローライフ」を送る僕たちにとって、現地の広大な温泉に浸かるというイベントは絶対に外せないのだ。




