第161話: 森を抜けて温泉街へ
極上の『星空キャビアディナー』から一夜明け、僕たちのキャンピングカーは豊穣の森を平和に通過し終えた。
木立が少しずつまばらになり、視界が開けると同時に、風に乗って独特のツンとした匂いが漂ってきた。
「ふんふん……なんだか、ヤマトの温泉の時みたいな匂いがするよ!」
「ああ、硫黄の匂いだね。地図通りなら、もうすぐ目的の街が見えてくるはずだよ」
ララが窓枠に手をかけてクンクンと鼻を鳴らす。
西の大陸へ抜ける街道の中継地点でもあるそこは、ヤマトとはまた少し趣の異なる、大きな温泉地として有名な場所だった。
『マスター。前方に大規模な居住区画および多数の熱源(温泉源泉)を感知。目的地の温泉郷【ユクムラ】への到着を確認しました』
ナビのアナウンスとともに、丘を越えた僕たちの目に飛び込んできたのは、湯けむりに包まれた美しい街並みだった。
ヤマトの純和風な温泉街とは違い、レンガ造りの洋風な建物が段々畑のように山の斜面に立ち並んでいる。まるでヨーロッパの古いリゾート地か、あるいは大きなお城の城下町のような風情だ。
「おおーっ、ヤマトの温泉も良かったけど、こっちは外国の温泉リゾートって感じでオシャなんよ!」
田舎(サカイの街)育ちのツムギが、目をキラキラさせて見下ろしている。
「ふむ……長旅の埃と、森での狩りの疲れ(疲れるほど動いた記憶はないが)を癒やすには、ちょうど良い場所じゃな」
「そうだね! アタシ、美味いモン腹一杯食った後に、大きなお風呂に入るの大好きなんだ!」
ソフィアとルナも、すっかりリラックスモードだ。
元々キャンピングカーには「極上のヒノキ風呂」が備わっているのだが、やはり「現地の温泉街を散策して、ご当地の名湯に浸かる」というのは、旅の醍醐味として外せない。
「よーし。それじゃあ、街で一番大きそうな温泉旅館を探して、そこでゆっくりしようか」
僕はハンドルを切り、湯気に包まれた坂道をゆっくりと下っていった。
世界を救う旅では決してありえない、完全なる「慰安旅行」の第二幕が始まろうとしている。




