第158話: 対決! キャビア・スライム
「こ、これは……たまげたんよ。まさか本当に、噂であの形だったなんて」
湖のほとりに密集する「それ」を見て、ツムギが目を丸くして呟いた。
そこにいたのは、大小様々な『スライム』たちだった。
しかし、ヤマトや西の大陸の道中で見かけたような、水色や緑色のゼリー状ではない。
彼らの身体は、まるで黒真珠のように美しく、深い漆黒の艶を帯びていたのだ。
『対象の解析完了。名称:キャビア・スライム。この豊穣の森特有の変異種です。体内を満たす液体成分が、ある種の高級魚卵と酷似した極上の風味(魔力成分)を持っています』
「キャビア……! グルメンティアの貴族たちが金貨数十枚で取引するという、あの海の宝石か!」
ルナが興奮気味に身を乗り出す。
「よし! アタシが速攻で首根っこ(スライムに首があるかは別として)をかっ切って集めてやるよ!」
「待つんよルナさん! 村のおじちゃん言ってたやん! 『傷つけると味が落ちる』って!」
「あ……」
ツムギに止められ、ルナが双剣を抜く手をピタッと止めた。
そう、ここが豊穣の森の厄介なところだ。ただ倒せばいいわけではない、「最高の状態」で仕留めなければ意味がないのだ。
『ツムギ殿の言う通りです。キャビア・スライムは物理的な衝撃を強く受けると、自己防衛のために体内の液体の塩分濃度を極限まで高め、ただの塩辛いヘドロと化してしまいます』
「なんだそれ! めちゃくちゃデリケートな奴らじゃないか!」
「なら、わらわの重力魔法でそーっと……いや、柔らかいゼリー相手では中身が破裂するやもしれんな」
さすがの大賢者・ソフィアも、今回は迂闊に手が出せないようだ。
ララに至っては「黒いぷるぷる! 食べる!」とよだれを垂らしながら突撃しようとしているのを、セリスが必死に羽交い締めにしている。
――その時。
ボコボコ……と、湖の中央付近の水面が大きく盛り上がり始めた。
「んンンンンンンッ……!!」
地響きのような不気味な鳴き声とともに姿を現したのは、周囲のキャビア・スライムの数十倍はある、家のように巨大な『キング・キャビア・スライム』だった。
一際美しい黒真珠の光沢を放つその巨体から、酸性の液体がポタポタと滴り落ち、湖畔の草をジュージューと溶かしていく。
「ヒエッ……! デッカいんよ! しかも酸をふりまいてる!」
「ユウ、どうする!? 切るのもダメ、叩くのもダメ……あんなデカい高級食材、指をくわえて見てるだけなんて納得いかないよ!」
盗賊のプライドより食欲が勝っているルナが、悔しそうに地団駄を踏む。
だが、僕には一つの勝算があった。僕は振り返り、ソファで退屈そうにしている最強の魔術師を見た。
「ソフィア……君の『氷結魔法』の精度は、どのくらいかな?」




