第157話: 森の主からの招待状
豊穣の森の奥深く。
極上のランチ(ステーキとタルト)を平らげた僕たちは、さらなる美味を求めてキャンピングカーで木々の間を進んでいた。
先ほどまでの明るい広場とは違い、森の深部は木が鬱蒼と生い茂り、少し薄暗い。しかし、漂ってくる「美味しそうな匂い」は、さらに濃厚になっていた。
「あー、お腹いっぱい。でも、この匂い嗅いでると、不思議とまた別腹が空いてくるね」
助手席でルナが、食後のお茶(ネットスーパーの高級緑茶)を啜りながら呑気なことを言う。
「それで、ユウ。村の商人が言ってた『森の主』っていう究極の珍味……目星はついてるのかい?」
「うん。村で聞いた噂によると、この森の一番奥にある『きれいな水が湧き出る大きな湖』に、そいつは棲んでいるらしいんだ」
僕が答えると同時に、後部座席でナビがホログラムで周辺マップを展開した。
『マスター。前方約1キロ地点に、巨大な水源反応を検知。おそらく目的の湖かと。ただし……その水辺周辺に、通常の魔物とは明らかに波長が異なる、高密度の魔素反応が数十体……いえ、数百体群集しています』
「数百体!? 珍味の大群ってことか!?」
ナビの言葉に、キッチンの片付けを終えたツムギが身を乗り出してきた。
「し、師匠! もしそれが全部最高級の卵やなんかだったら……ウチら、一夜にして大金持ちなんよ!」
「いやツムギ、金持ちにならなくても君の料理と僕のネットスーパーがあれば十分豊かな生活ができるから」
冷静にツッコミを入れつつ、僕も無意識にアクセルを踏む足に力が入っていた。
『警告。対象の群れは、強い酸性の分泌液を放つ可能性があります。キャンピングカーの装甲なら防げますが、生身での接触は危険です』
「ふむ。つまり、美味しいお宝のくせに、近づく者には容赦しないというわけだな」
ソフィアが後部座席で腕を組み、面白そうに目を細めた。
やがて、木立が途切れ、視界が一気に開けた。
目の前に現れたのは、コバルトブルーに澄み切った巨大な湖。
そして――その岸辺を黒く埋め尽くすようにうごめく、無数の奇妙な魔物の群れだった。
その光景……黒い粒々が密集して蠢く様子は、少し不気味でありながらも、食通が見れば狂喜乱舞するような「圧倒的な高級感」を漂わせていた。
「……あれが、豊穣の森の主……」
「ユユー、真っ黒なぷるぷるがいっぱいいるよー!」
ララが窓に張り付いて、尻尾をパタパタと振る。
僕たちは言葉を失いながら、静かにキャンピングカーを停車させた。ついに、幻の珍味との対峙の時だ。




