第154話: 甘い罠とフルーツ・トレント
極上の霜降り肉(ビーフ・ミノタウロスのドロップ品)をゲットし、ホクホク顔で森の奥へと進む僕たち。
豊穣の森の木々はどれも見上げるほど高く、葉の隙間から差し込むこもれびが、幻想的な風景を作り出していた。
「くんくん……あっ! ゆー! あっちから、あまーい匂いがするよ!」
パーティの先頭を歩いていたララが、狐耳をピクッと動かして駆け出した。
「お、おいララ! あんまり先走るなよ、ここは一応ダンジョンなんだから……!」
慌てて後を追うと、少し開けた場所に生えている「一本の奇妙な大木」が目に入った。
普通の木ではない。幹には顔のような模様があり、太い枝からは、赤、黄、紫といったカラフルで艶やかな果実が、宝石のように鈴なりにぶら下がっていた。
果実から漂ってくるのは、とてつもなく濃厚で甘い、極上のフルーツの香りだ。
「じゅるり……あれ、絶対おいしい果物なんよ!」
「ああ、間違いない。しかも色んな味が楽しめそうだぞ……!」
ツムギとルナが、吸い寄せられるように果実に手を伸ばした。
――その瞬間。
『ボショォォォォンッ!!』
突然、大木の幹にある顔(みたいな模様)が大きく歪み、枝が鞭のようにしなってルナたちを絡めとろうと襲いかかってきた。
「うわっ!? しまった、こいつも魔物か!」
「わぎゃっ!? アタシのタルトぉぉぉっ!!」
ナビが即座に分析結果をホログラムで警告してくる。
『警告。対象は植物型魔物、フルーツ・トレント。極上の果実の香りで獲物を誘い込み、養分として捕食する習性があります。なお、斬撃や炎で攻撃すると果実が傷み、味が極端に劣化します』
「うへぇ、また面倒くさい縛りプレイか!」
「なら、わらわの出番じゃな。木そのものを傷つけず、果実だけを『収穫』すればよいのであろう?」
ツタから逃げ回るルナたちを尻目に、最後尾を歩いていたソフィアが(珍しくやる気を出して)一歩前に出た。
「あの極上の甘い匂い……わらわの食後のデザートとして、ぜひ食卓に並べたいからのう! 【グラビティ・シェイク(重力振動円)】!!」
ソフィアが軽く杖を振ると、トレントの周囲の小さな空間だけが、まるで激しい地震に遭ったかのようにガクガクと上下に揺さぶられた。
幹自体は折れない絶妙な重力コントロール。
その結果――
『ポロポロポロポロッ!!』
「おおおお〜っ!」
フルーツ・トレントの枝から、美しい7色の果実が、熟れた小石のように次々と地面に落ちてきた。
果実をすべて落とされたトレントは、「ボショォォ……」と情けない音を立てて葉を丸め、すごすごと森の奥へと逃げ去っていった。
(果実を落とされると戦意喪失するらしい)
「やったー! 大漁なんよ、師匠!」
「よし、よくやったソフィア! 今の獲物(果実)とさっきのお肉で、ちょっと遅めのランチにしようか!」
大賢者のチート魔法を「果物狩り」に使い、僕たちはホクホク顔で戦利品を拾い集めた。




