第152話: 豊穣の森のうわさ
朝食を終えた僕たちは、腹ごなしも兼ねて、街道沿いにあった小さな中継村の市場に立ち寄っていた。
キャンピングカーの巨大な車体(ホテルモードで普段よりさらにデカい)は、村の外れに目立たないよう擬装魔法をかけて停めてある。
「へぇ、この辺りで採れる野菜は、ヤマトのものとは少し風味が違うんよ! これなら『ぽとふ』みたいな煮込み料理に合いそうやね」
「ツムギ、これも安いぞ! こっちのエビによく似た魔物の足……焼いたら美味そうじゃないか?」
僕とツムギは、市場の店先で現地の食材を品定めしながら、夕食の献立に頭を悩ませていた。
(ルナとララはすでに買い食いツアーに出発し、セリスとソフィアは日陰の茶屋で休んでいる)
「――旅のお客さん方。西の大陸の中心、『美食都市』を目指してるのかい? それなら、美味い食材探しの耳寄りな話があるぜ」
野菜売りの初老の商人が、僕たちの会話を聞きつけて声をかけてきた。
「耳寄りな話、ですか?」
「ああ。ここから街道をずっと西へ進むと、大きな森があるんだ。『豊穣の森』って呼ばれててな。ただの森じゃねえ。あそこは、ちょっと特殊な『魔物』しか棲んでないんだ」
魔物、と聞いて僕が少しだけ身構えると、商人は笑って首を振った。
「安心しな、人を襲うような凶暴なバケモンはいねえよ。ただな……あそこの魔物は、なぜかみんな『極上の食材』に変異してるって噂なんだ。普通の牛よりも何十倍も美味い霜降り肉を落とす魔物とか、甘い果実をぶら下げた歩く木とか……」
「ご、極上の……食材……っ!?」
僕の隣で、ツムギの瞳がカッと見開かれた。
彼女の周りから、料理人特有の(?)凄まじいオーラが立ち上っている気がする。
「おじちゃん! その森、詳しい場所を教えて! 今すぐ行くけん!」
「お、おう。街道をまっすぐ進めば一日で着くが……危ないってわけじゃねぇが、あの森の魔物たちは『捕まえる』のが少しばかり厄介らしくてな。魔法や剣でむやみに傷つけると、味が落ちちまうらしいんだ」
「なるほど……『どうやって美味しく狩るか』が試されるダンジョンってわけだね」
僕は思わずニヤリと笑った。
危険な罠や、世界を滅ぼす大厄災なんかよりも、ずっとワクワクする響きだ。
「よし! ツムギ、決まりだね! ネットスーパーの高級食材もいいけど、せっかくの異世界旅行だ。この世界ならではの『珍味』を、心ゆくまで集めてみよう!」
「うんっ! 師匠! ウチの最高のキッチンで、全部一番美味しく料理しちゃるけんね!」
僕たちは市場で最低限の野菜と調味料だけを買い込み、急いでキャンピングカーへと戻った。
目指すは『豊穣の森』。
食欲全開の、僕たちにふさわしい「狩り」の始まりだ。




