SS: 天才整備士の徹夜作業(ガーネット視点)
「……くっそ、あのクソポンコツAIめ! なんでこんなに要求スペックが高いんだよ!」
東の海の港町・ポルトにある私の工房の奥深く。
私は油まみれのツナギのまま、通信用ホログラムモニターの前で頭を抱えていた。
数ヶ月前、私の技術と彼のよくわからない『マイホーム』スキルで水陸両用に魔改造を施した、キャンピングカー。その主であるユウから、突如として長距離通信が入ったのだ。
『マスターの睡眠の質を0.5%向上させるため、マットレス内部の魔力スプリングの反発係数を再計算してください。……ガーネット殿、まさかこの程度の演算で手こずっているのですか?』
「うっさい! アタシの頭脳とアンタの並列処理を一緒にすんな! そもそも、たかが『寝る』だけのために、なんで結界魔法の理論を応用したクッション材なんか計算しなきゃならねえんだ!」
要求されたアップデート・カルテ(全108項目)は、どれもこれも常軌を逸していた。
「風呂の湯加減を全自動で一定に保つための魔力循環システム」
「80インチある光の板(テレビ?)を見やすくするための、車内光量自動調整機能」
「三つ同時に鍋が置けて、しかも火が出ない調理台(IH式コンロ)への魔力直結供給」
……戦闘用の大砲の威力を上げるならわかる。
だが、あいつらが求めているのは、ひたすらに『生活を快適にする』ための、ただそれだけのためのオーバーテクノロジーなのだ。
「……でもまぁ、嫌いじゃねえけどな、こういうの」
文句を言いながらも、私の手は休まることなく図面を引き、ホログラム空間に新たな魔力回路を構築していく。
あいつらの馬鹿げた『究極の快適さ』を求める情熱に、私のドワーフの血と職人魂が心地よく共鳴しているのだ。
「オーケー、理論上の構築は終わった! あとはそっちで、ユウのスキルに乗せて具現化しろ!」
『了解しました。ご協力、感謝します(システム構築率・99%完了)』
東の空がうっすらと白み始めた頃、通信が切れた。
私は徹夜明けの重い体を椅子に沈めながら、大きく伸びをした。
(……完成した『走るお城』、アタシもちょっと乗ってみてぇなぁ)
いつか、あいつらがまたポルトに寄った時は、最高の酒を奢らせて、あのふかふかで信じられないほど快適らしいベッドってやつで、一日中爆睡してやるのだ。




