第142話: 天才シェフの恩返し
「さあっ、どんどん食べてええんよ! キョウの皆サマ、今日はウチの自慢の料理、お腹いっぱい持ってきたからね!」
王都の広場に設営された仮設の巨大テント。
その前で腕まくりをしているのは、ヤマトが誇る天才料理人にして、僕の最高のお抱えシェフ・ツムギだった。
「おおっ!? こ、これはエチゴヤが買い占めていたはずの『飛鳥牛』じゃないか!」
「こっちの魚も凄いぜ! 新鮮な白身魚の……なんだこれ、『かるぱっちょ』?」
ずらりと並んだ長机には、ヤマトの食文化の常識を覆すほどの豪華絢爛な料理が並べられていた。
エチゴヤの倉庫から没収(没収というか、領主であるカエデからの正規の配給)した高級食材の数々と、僕がネットスーパーで取り寄せた現代日本の調味料。
それらを、ツムギの神がかった包丁さばきと、キャンピングカーから引っ張ってきた電源(最新のIHヒーターとオーブン)で一気に調理したのだ。
「師匠の調味料と火の道具があれば、こーんなに大人数でもいっぺんにアツアツが出せるんよ! ほら、そこのおじちゃん、ローストビーフのおかわりいる?」
「い、いただくぞっ! あぁ、なんという柔らかさ……生きててよかったぁ……」
広場は一瞬にして、極上のディナー会場と化していた。
ツムギは元々、サカイの料亭で下働きをしていた少女だ。しかし今や彼女は、ヤマトを救った英雄(僕たち)の専属料理人として、ヤマト一の腕前を世界中に見せつけている。
「ツムギも、すっかり立派になったわねぇ」
キャンピングカーのオーニング(日よけ)の下で、ルナが串焼きを片手にニヤニヤと笑っている。
その隣では、ララが自分の顔の2倍はある巨大な骨付き肉にかぶりついていた。
「んむんむっ! ツムギのご飯、せかいいちー!」
「こらララ。よく噛んで食べないと喉に詰まらせますよ」
セリスが優しくララの口元を拭いてやっている。ヤマト編が始まったばかりの頃は、カツ丼の油に胃もたれしていたセリスも、すっかり現代風の味付け(ジャンクフード含む)に適応していた。
「……ふふっ。あんなに悲壮な顔をして働いていた民が、皆、子供のような顔で笑っております」
僕にお酌をしながら、カエデが嬉しそうに目を細めている。
「人間、美味しいものを食べている時が一番平和だからね。……さぁ、カエデも遠慮せずに飲みなよ。今日はこの国のお祝い(リスタート)なんだから」
「はいっ、ありがたく!」
心地よい春の夜風が吹き抜ける中、復興の宴は最高潮に向けて盛り上がっていった。




