第140話: ヤマトの青空と帰還
九尾の怨霊が完全に消滅した直後。
王都・キョウを何日も覆い隠していた分厚い「黒い雲」が、ウソのように晴れ渡っていった。
雲の切れ間から、眩しいほどの朝の太陽が差し込み、ボロボロになった王都の街並みを優しく照らし出す。
「おぉ……空が、空が見えるぞぉ……!」
「助かった……俺たち、助かったんだ……!」
正気を取り戻し、避難していた民衆たちが、大天守の周囲で歓喜の声を上げ、抱き合いながら涙を流し始めた。
ヤマトを数百年ぶりに襲った大厄災の危機は、今度こそ完全に去ったのだ。
「ユウ殿ぉぉっ!!」
地上から、カエデが僕に向かって力いっぱい手を振っていた。
その顔は涙と灰でぐしゃぐしゃだったけれど、これまでで一番、美しく晴れやかな笑顔だった。
「……ナビ、お疲れ様。『機動大天守モード』解除だ。いつもの姿に戻してくれ」
『了解しました、マスター。通常形態への移行シークエンスを開始します』
巨大な城の姿をしていた外装が、ブロック状に分解されながら、シュルシュルと元のキャンピングカーのサイズへと収まっていく。(この機能を設計したナビは、本当に天才だと思う)
元の姿に戻ったキャンピングカーから降りると、すぐにルナやララ、セリス、そしてソフィアが僕の周りに集まってきた。
「アッハッハ! 今回も大立ち回りだったねぇユウ! 最後の大将の首は、アンタに譲ってやったよ!」
「ユウー! ララ、いっぱいいっぱい蹴っ飛ばしたよ! エライ?」
「はいはい、みんな本当に偉いよ。最高のパーティだ」
突進してくるララを抱きとめながら、僕はルナとグータッチを交わした。
カエデが歩み寄り、深く、深く頭を下げた。
「ユウ殿……そして皆様。このヤマトの国を、そして民を救っていただき、言葉では言い表せないほど感謝しております。貴方たちは、我が国の永遠の英雄です」
「よしてくれよ、英雄だなんて。僕たちはただ、旅行中に少し『大掃除』を手伝っただけさ」
僕はカエデの肩を叩いて笑った。
「元凶だったあの関白とかいう奴も、ソフィアの一撃で潰れた。これからは、君やゲンサイさんが中心になって、本当に民のためになる国造りをしていってくれ」
「はいっ……! 必ずや」
カエデが力強く頷く。
「さ、それじゃあ僕たちは帰るとするよ。ここから先はヤマトの政治問題(戦後処理)だ。よそ者の僕たちが出しゃばるべきじゃないからね」
太陽の光を浴びながら、僕はキャンピングカーの運転席に戻った。
セリスたちも、それぞれの定位置(助手席やリビング)へと乗り込んでいく。
「カエデ。復興が落ち着いたら……いや、いつでもいい。また『ユウの村』に遊びにおいでよ。最高の温泉と、ツムギの料理を用意して待ってるからさ」
「ユウ殿……!!」
カエデの瞳から、再び大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
僕は彼女が見えなくなるまで手を振り続け、キャンピングカーをゆっくりと発進させた。
「さぁ、みんな。帰ろう! 僕たちの最高の居場所へ!」
「「「おーっ!!」」」
「あーあ、早くツムギの特大オムライスが食べたいねぇ」
「わらわは『ぷりん』の特大サイズを所望するぞ!」
「ワンッ!」
車内は、王都に来る前よりもずっと賑やかな笑い声に満ちていた。
ヤマトに巣食う闇は完全に晴れた。
キャンピングカーのタイヤが、自由とスローライフに向かう帰り道を、軽快な音を立てて走り続けた。




