第133話: 元凶たる大貴族
「おや、珍客とは思いきや……カエデ殿ではありませぬか。このようなみすぼらしい箱車でお越しとは、ヤマトの長老たる父君が泣いておりますぞ」
輿からゆっくりと立ち上がったのは、仕立ての良すぎる着物に身を包んだ白髪交じりの男だった。
彼からは、圧倒的で吐き気を催すほどの魔素が立ち上っている。第1部で対峙した大神官バルガスと同等か、それ以上に濃密な「世界の歪み」そのものだ。
「貴様は……関白ドウサン! なぜ、貴様ごときが裏陰陽寮を率いている!?」
カエデが刀に手をかけ、鋭い声を上げる。
関白と呼ばれた男……ドウサンは、扇子で口元を隠しながら不敵に笑った。
「フフッ。なぜ、と? 決まっておろう。このヤマトを、我が意のままに染め上げるためよ」
彼は愉快そうに両手を広げ、言葉を続ける。
「ゲンサイのような旧態依然とした堅物は、我が新しい国造りには邪魔だった。だからこそ、あの『妖刀』を遣わし、狂い死にさせてやろうとしたのだ。……だが、それを邪魔する小うるさい羽虫が現れた。のみならず、サカイのエチゴヤを潰し、我の重要な資金源まで断ってくれたこと、万死に値するぞ」
「……つまり、アンタが全部の黒幕ってことでいいんだな?」
僕はキャンピングカーのスピーカー越しに、静かに問いかけた。
「いかにも。私は、数百年前に封印された『大厄災』の力をこの身に宿し、神にも等しい力を手に入れた。この瘴気は、私に従わぬ愚かな民を『管理』するための素晴らしい力よ。王都の民は皆、私の忠実なる操り人形として永遠に生き続けるのだ」
「ふざけるな! 人の心を奪い、尊厳を弄ぶことが国造りだというのか! そのような外道、このカエデ・カミイズミが両断してくれる!」
カエデが大上段に刀を構え、ドウサンに向かって疾走する。
しかし。
ドウサンが扇子を軽く振ると、彼の前に黒い泥の壁が幾重にもそそり立ち、カエデの鋭い一撃を受け止めてしまった。
「無駄無駄無駄ァ! 我が力は既に人智を超え――」
「【グラビティ・プリズン(重力牢獄)】」
ドヂゥゥゥゥゥンッ!!
「ぐぇああああッ!?」
ドウサンの高笑いを遮るように、上空から信じられないほどの重圧が男の体を叩き潰した。
泥の壁ごと、彼は地面に石畳を砕きながらめり込んでいく。
「……長々と御託を並べおって。わらわのバカンスを邪魔した元凶なら、一瞬で圧死させてやるわ」
「ソ、ソフィアさん……容赦がないですね」
キャンピングカーの屋根から杖を下ろしたソフィアが(物理的に)冷酷な笑みを浮かべていた。
彼女には「黒幕のドラマ」なんて関係ない。ただ、美味しいご飯と温泉の時間を奪った敵に対してキレているだけだ。
「……おのれ、おのれえぇっ! たかが魔術師ごときがぁ!」
だが、ドウサンはただでは終わらなかった。
地面にめり込んだ彼の体から、ドロドロとした黒い血のようなものが溢れ出し、周囲の陰陽師たちの足元を絡め取っていく。
「私への忠誠を示す時が来たぞ、虫ケラども! 貴様らの魔力、命、魂……そのすべてを、我が糧とせよ!」
「ひっ!? ぎ、ぎゃあああーーッ!」
陰陽師たちが悲鳴を上げる間もなく、彼らの体は黒い泥に飲み込まれ、ドウサンの体へと急速に取り込まれていく。
そして。
「すべてを喰らい尽くし……目覚めよ……ヤマトに封じられし真の恐怖……『九尾の怨霊』よォォォッ!!」
ドウサンの絶叫と共に、王都の中心から、天地を揺るがすほどの巨大な魔力の「柱」が立ち上がった。




