第132話: 魔都と化したキョウ
関所を(物理・魔法複合シールドで吹き飛ばしながら)通過し、ついに王都キョウの内部へと足を踏み入れた僕たち。
しかし、そこで待っていたのは、煌びやかな大都会の姿などではなかった。
「……なんてことだ。これが、あの華やかだった王都なのか……?」
カエデが、助手席の窓枠にしがみつきながら絶句する。
空を覆う黒い瘴気の雲のせいで、街全体は薄暗い紫色の霧に沈んでいた。建物の壁には不気味な黒い苔のようなものがへばりつき、道行く人々は皆、魂を抜かれた亡者のようにうつむいて、無言でふらふらと歩いている。
『大気中の瘴気成分により、一般市民の精神に変調をきたしていると推測されます。一種の広域洗脳、あるいは生気の吸収状態です』
「酷い……こんなの、あまりにも可哀想です!」
セリスが悲痛な声を上げる。
彼女の「聖女の力」の源である光の魔力が、外の邪悪な空気と反応してピリピリと逆立っているのがわかった。
「……おいおい。街を歩いてる連中、目がいっちまってるぞ。完全に操り人形じゃないか」
「クソッ。妖刀の力で父上を操っただけでは飽き足らず、王都の民すべてを呪いの餌食にするとは……! エチゴヤなど目ではない、ヤマトの真なる敵はあの御所(中枢)にいる!」
カエデの怒りに満ちた声が、車内に響く。
キャンピングカーの中にいる限り、僕たちは絶対に呪われることはない。だが、外で苦しんでいる人々を放置することは、カエデにも、そして僕の隣にいるお人好しのパーティメンバーたちにもできない相談だった。
「よし。まずは街の人たちをなんとかしよう。外から瘴気が入らないように、キャンピングカーの浄化フィルターを最大出力にして、換気システムを外に向けて開放だ!」
『了解。車内の浄化済空気を外部へ高速排出し、一時的なクリーンゾーンを形成します』
プシューッ! という音と共に、キャンピングカーの換気口から、強風のような勢いで新鮮な空気が吹き出した。
「セリス、このクリーンゾーンの中で、手当たり次第に『ヒール(浄化)』をかけてやってくれ!」
「はいっ! 大いなる光よ、迷える者たちに安らぎを!」
セリスがキャンピングカーのルーフに立ち、街を行き交う人々に向けて、眩い光のシャワーを降り注がせた。
光を浴びた人々は、一瞬苦しそうに咳き込んだ後、ポカンとした顔で周囲を見渡し始めた。(洗脳が解けたのだ)。
「ルナとララは、正気に戻った人たちをキャンピングカーの周囲へ誘導して! ここなら、シールドのおかげで安全だから!」
「了解! ほらアンタたち、ぼーっとしてないでこっちへ来な!」
「こっちだよー!」
素早い対応で、次々と人々がキャンピングカー(安全地帯)の周囲へと匿われていく。
だが、僕たちの「目立つ救出劇」を、敵が黙って見過ごすはずがなかった。
「……愚かな。せっかくの呪縛を解くとは、我が王都の美しい規律を乱す大罪であるぞ」
街の通りを塞ぐように、ぞろぞろと現れた数十人の陰陽師たち。
そして、その奥から、豪華な輿に乗って現れたのは、これまでのチンピラや役人とは格が違う、圧倒的な負のオーラを纏った初老の男だった。




