第131話: 不穏なる王都への道
「おーいしい! ツムギちゃんのおにぎり、サイコー!」
「うむ、この『しゃけ』という焼き魚の塩加減がたまらんのう! ユウよ、おかわりじゃ!」
キャンピングカーのリビング空間では、ララとソフィアがツムギの手作りおにぎりを頬張りながら大ハシャギしていた。
僕も運転席で、セリスに入れてもらった温かいお茶(ヤマトの高級茶葉)を啜る。これから王都へ決戦に向かうというのに、車内は完全にピクニック気分だ。
「……アンタら、少しは緊張感ってもんがないのかい? 相手は、あの領主ゲンサイを操っていた妖刀の出処……つまりヤマトの裏で糸を引いてる一番の黒幕なんだよ?」
ルナが呆れたようにツッコミを入れるが、彼女の手にもしっかりと「梅干しおにぎり」が握りしめられていた。
「緊張したって腹は減るからね。それに、ここ(マイホーム)にいる限り、外の敵から不意打ちを食らう心配はないんだから、リラックスして備えるのが一番さ」
「ユウ殿の仰る通りです。このような快適な旅路で王都へ帰還することになろうとは、以前の私には想像もできませなんだ」
助手席のカエデが、窓の外の景色を眺めながら静かに頷く。
だが、その彼女の横顔は、時間が経つにつれて徐々に険しくなっていった。
『マスター。前方の天候が急激に悪化しています。……いえ、これは通常の気象現象ではありません。大気中の魔素濃度が異常な数値を記録しています』
「やっぱりか」
ナビのアナウンスに従い、フロントガラス(ホログラム・ディスプレイ)に映る景色を見据える。
ヤマト王国の中心、王都キョウ。
本来ならば、美しい瓦屋根の都と、青々とした山々が見えるはずのその方角は、いまや黒く重苦しい「雲のようなもの」にすっぽりと覆われていた。
「あれは……瘴気、ですね」
「うん。第一部の時に戦った、大神官バルガスが纏っていたあの邪悪なオーラ……それの、とてつもなくデカいバージョンだ」
セリスの呟きに、僕は顔をしかめながら同意した。
遠くから見てもはっきりとわかるほどの、濃密なる負のエネルギーの塊。
「どうやら、監査官サイカの後ろにいた連中は、もう誤魔化す気もないらしいね」
「王都の民が心配です……ユウ殿、急ぎましょう」
カエデが刀の柄を強く握りしめる。
僕は「わかった」と短く応じ、キャンピングカーの魔力駆動ブースターを全開にした。(※スピード違反で捕まるようなお行儀の良い国は、もう眼の前に存在しないだろうから)
不気味に渦巻く黒雲の中へと、最強の動く城が一直線に突入していく。
ヤマトでのスローライフを守るための最終決戦が、もうすぐそこまで迫っていた。




