第124話: 裏で引く糸
深夜。
温泉と天ぷらで完全にノックアウトされたサイカは、客室代わりのログハウスで高いイビキをかいて爆睡していた。
彼にもはや監査官としての脅威はないだろう。
しかし、平和な夜の村に、忍び寄る不穏な影があった。
サイカの護衛として控えていた四人の黒装束――彼らが、音もなく客室を抜け出し、村の中央に停められたキャンピングカーへと向かって動いていた。
「……あの馬鹿な役人め。任務を忘れおって」
「まあよい。我らの真の目的は、この土地の調査と、必要であれば力尽くでの接収。こんな強大な魔力の源泉と、謎の『動く城』……彼奴らだけに独占させておくには危険すぎる」
黒装束の一人が、笠を外す。
そこに現れたのは、顔の半分に奇妙で禍々しい紋様が刻まれた男だった。彼らはただの護衛ではない。ヤマトの闇に潜む暗躍組織……『裏陰陽寮』からの刺客だった。
「この土地の力(土蜘蛛の残滓が溶けた強力な地脈)を使い、あの儀式を行う。邪魔な村人どもは、寝首を掻いて始末してしまえ」
「御意」
四人の裏陰陽師たちが、懐から数枚の「呪符」を取り出した。
「出でよ、式神」
彼らが符を地に放つと、ボフッという煙と共に、異形の化け物たちが次々と現れた。顔が鬼のように歪んだ獣や、刀を持った一つ目の小鬼。
それだけではない。森の奥からは、彼らの合図に呼応するように、黒影衆の生き残りや、新たに雇われた忍者部隊が村を包囲し始めていた。
「……まずは、あの寝ずの番をしている番犬からスクラップにしてやろう」
一人の陰陽師が冷酷に笑い、キャンピングカーの前に座っていた犬型ドローンの『ポチ』に向けて、式神を放とうとした。
――その時。
『警告。村の包囲網、および未確認魔法生物の接近を検知。防衛プロトコルをフェーズ3に引き上げます』
静まり返っていたキャンピングカーから、冷徹な機械音声(ナビの声)が響き渡った。
ポチの目が赤く発光し、背中の装甲板がシャコッと開いて、非殺傷ミサイルのランチャーが飛び出す。
「な、なんだと!? 機械仕掛けの犬が、喋った!?」
「驚くのはそこじゃないよ、アンタら」
キャンピングカーの屋根の上。
月明かりを背に受けて、黒装束の小柄な影が立ち上がった。
暗殺者殺しの盗賊、ルナだ。
「アンタらの殺気なんて、夕飯の時から丸わかりだったんだよ。ウチのユウと最高のご飯を邪魔する奴は……アタシが許さないよ」
ルナが両手の短剣を抜き放ち、夜の闇よりも深い笑みを浮かべた。
ヤマトの暗躍者たちと、僕たちの「村」を守る者たちとの、静かで激しい戦いの幕が開いた。




