第123話: 最高のおもてなし(物理)
監査官のサイカを『接待』するため、僕たちはまず彼を村の自慢である「天然掛け流し露天風呂(キャンピングカー・重機モード掘削仕様)」へと案内した。
「はっ。こんな辺境の泥水など、王都の白湯に比べれば……」
鼻で笑っていたサイカだったが。
一歩、湯に足を踏み入れた瞬間、その細い目が限界まで見開かれた。
「な、なんという肌触り……! 湯船の底から湧き出るこの力強い熱……そして、体に沁み渡る謎の活力は……ッ!?」
「ただのお湯じゃありませんよ。地下深くで眠っていた『土蜘蛛の突然変異体』の魔素が溶け込んだ、特製の強壮・美肌ブレンドです」
ヤマトに眠っていた土着魔物の力は伊達じゃない。
三十秒後、サイカは「ふほぉぉぉぉぉぉぉっ!!」と奇声を上げながら、完全に湯船の中でドロドロに溶け……いや、リラックスしきって腑抜けた顔になっていた。
監査官の威厳など、もはや微塵もない。
「さて、お風呂上がりには美味しいご飯ですよね」
風呂から上がり、浴衣姿でふらふらと広間へ戻ってきたサイカの前に、ツムギが『天ぷら御膳』をドサリと置いた。
キャンピングカーの業務用IHフライヤーで、完璧な温度管理のもと揚げられた、ヤマト近海で獲れた新鮮なエビや野菜の天ぷら。そして、炊きたての白米。塩と、特製の天つゆが添えられている。
「ふ、ふん。天ぷらか。こんな大衆食、王都の貴族が食べるものとしては……」
サイカが震える手でエビ天を箸でつまみ、口に運ぶ。
サクッ……。
その瞬間、彼の世界は変わった。
「なんだこの衣の軽さは!? 薄いのに、完璧にサクサクしている! そして噛んだ瞬間、中に閉じ込められていたエビの旨味が一気に口の中で爆発し……! さらにこの米! 一粒一粒が輝き、立っている! 天つゆの出汁の深みは……ああ、海の恵みが、ヤマトの大地の恵みが、私の中で一つに……ッ!」
「さあ、お代わりもありますよ。よく冷えた麦茶と一緒にどうぞ」
「う、美味い……美味すぎる……! 私が今まで王都で食べてきた食事は、いったい何だったのだ……!」
サイカは涙を流しながら、猛然と天ぷらと白米をかき込み始めた。
監査官が完全に「飯テロの奴隷」と化した瞬間である。
「アッハッハ! ちょろいおっさんだねぇ!」
「ユウよ、わらわにもそのエビ天をお代わりじゃ!」
ルナが笑い転げ、ソフィアが自分の皿を差し出してくる。
大広間は、和やかで美味な笑顔に包まれた。
「ユウ、作戦は大成功みたいだね」
「ああ。これで監査官殿も、僕たちの村を取り潰す気はなくなるはずだ」
僕はホッと胸を撫で下ろした。
……しかし、僕たちが警戒すべきなのは、無能な役人ではなく、その後ろで糸を引いている「本命」の方だったのだ。
大広間の隅で、微動だにせずサイカの後ろに控えていた笠の護衛たち。
彼らの一人が、忌々しげに舌打ちをしたことを、僕はまだ気づいていなかった。




