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9-17


 練習施設から戻ってきてから週末を何日か使う。

 何に使ったのかと言えば、森の民サッカー協会と近衛兵の間にある関係。それが意味するものを調べようとするが、早々に壁にぶち当たる。

 私はその障害について独白する。


「森の民サッカー協会の管轄は魔錬教育省社会教育局が掌る……ねえ」


 近衛兵組織は内閣の外の特務機関である近衛政務府がトップとしてまとめている。そして魔錬教育省は、ゲーム内の私が就任していた宰相職の下に置かれる閣内省庁である。立ち位置としては内務省や外務省、あるいは魔法省や錬金省などと似たようなものだ。

 『魔錬』と頭についているが、魔法と錬金術はこの世界における先進技術と同義であるので、別に魔錬教育省が、魔法使いや錬金術師の傘下にあることを示しているわけではない。もっとも技術開発においては協力することもあると思うけれども、ともかく組織としては完全に別である。

 そんな魔錬教育省は一体何をしているのかと言えば、一番分かりやすいところでは、通常の国公立の小学校から大学までの運営並びに、それ以外の学校の監督である。国公立以外の学校なんて私立しかないと一瞬考えてしまうが、そもそも在学中の此処、魔法爵育成学院は魔錬教育省の管轄ではなく魔法教育統括部管轄な訳で。

 このほかに、アマルリック王子が小学校時代に通っていたガルフィンガング中央小学校は、国公立ではなく『王立』だったり。これは王家が運営母体になっているようだ。


 その他の魔錬教育省の業務としては図書館の運営・維持もある。学校の図書館ではなく自治体の運営する図書館は入館料がかかるというのは、初等科時代にソーディスさんとの間で異世界カルチャーギャップの一例として既に知っていることであった。その図書館行政の頂点に君臨するのが、この魔錬教育省なのである。



 そんな魔錬教育省の一部署である社会教育局が所管する事項は、まあそのまま『社会教育』――即ち、学校教育以外に関わる事業ということになる。

 今回大いに関係するスポーツ振興の他に、成人後教育や生涯教育事業、あるいは地域の歴史を編纂へんさんしたり蓄積し後世へと伝達する事業、はたまた就職支援なども行っている。

 まあ就職支援については、内務省社会局の方で大々的に失業対策を行っていることからそちらと重複する事業であったりするし、規模的には内務省の方がメインだったりするんだけれども、機能としては魔錬教育省においても細々とやっている現状なようである。まあ似通った仕事だからといって画一的に統合して、じゃあ明日から別の省庁勤務……ということにはできない。というかそもそも『世界繊維危機』の影響が依然として残る昨今では、むしろ失業対策と就職支援を担う両部署が忙しくて統合どころか仕事を分割して欲しいとすら思っていそうだし。

 そしてそんな多忙が予期される社会教育局であるが、更にもう1つ、それも私達に大きく関わりを有する業務を有していた。


 それは、女性教育であった。



「うーん……。最悪は近衛兵の中でも私を監視する一派がブランヒルデさんの義父に関係している前提の下で、しかもそれが魔錬教育省と連動していて『女性教育』問題から私達に斬り込みにかかろうとしているケースだけど……」


 その自分の独白は、正直半信半疑である。

 私1人を潰すためにわざわざ国の全然違う組織2つが足並みを揃えるか? 如何に無自覚なところで私が魔錬教育省の逆鱗に触れていたとしても、それはちょっとおかしな話である。この最悪の想定は、疑心暗鬼だとか猜疑心だとかそういった類のものでしかない。


 そして何より忘れてはいけないのは、私の目的はこの『森の民サッカー協会』と近衛兵組織の背後関係を把握することではなく、あくまでブランヒルデさんと仲良くすることなのだ。普通、友達になろうとしている人の家族の状況の裏取りを行うことはしないのは重々承知である。けれどもそれを行うのは『友達になるリスク』を考えてのことではなく『何をしたら友達ではなくなるか』の指標を把握しておくことにある。


 ……しかし、色々と抑えておくべきものが増えてきた。最初は魔法使いの中さえどうにかすれば何とかなると思っていた。だってこの国が戦争に邁進した直接的要因はゲームシナリオにおいては魔法使いの強硬派にこそあったのだから。


 しかし、蓋を開けてみればその中身は極めて複雑である。女性の社会進出には教会勢力が関与し、私が魔法使いキャリアを選択できるようになった背景には錬金術師らの動きもあった。そして本来の主人公がこの国へと来る理由となった国外派兵の職業体験は外務省によって中止とされ、そして国外植民に関して積極的な立場を有している者も居る農業界。また近衛兵組織は私を革新派として警戒、更にはスポーツ行政を通じてその近衛と魔錬教育省の間には何やら関係性が見え隠れしている。


 敗戦回避という、当初からの最終目標。これを成し遂げるのは――決して容易ではないのではないだろうか。




 *


 一応、その後のアロディアさんの調査にて、大まかな全貌は明らかとなった。

 まず前提知識として近衛兵務府は、近衛兵務長をトップとする。その近衛兵務長を補佐するのが近衛参事官ということになり、これがブランヒルデさんの義父にあたるオドラニエル・ブランヒルデさんが近衛兵時代に務めていた役職だ。

 アロディアさんが語る。


「2点あります。

 まず、ケールスティンさんの義父であるオドラニエル・ブランヒルデさんが、森の民サッカー協会の会長職に就いておりますが、彼は会長としては2代目であることです。

 そして、初代会長が就任したのは今から25年前。以前の魔王侵攻から丁度2年後ですね。しかも初代会長もまた……近衛より出ております」


 前回の魔王侵攻の『2年後』。何か引っかかると思えば『魔王侵攻手形』の存在である。私が幼少期の頃からずっと続いていた金融不安――もっとも今では世界的な恐慌が継続しているが――その要因となったものの1つが『魔王侵攻手形』の決済問題であった。そして魔王侵攻より『2年』という節目は、延長を行う前の最初期の決済期限であったことを私は覚えていた。


「『魔王侵攻手形』の当初の決済期限のタイミングだね。でもそれがサッカーと何か関係するの? いや、まあ確かに経済的に落ち込んでいるときはスポーツは不振になるとは思うけども……」


「……ヴェレナ先輩は既にその答えを知っているはずですよ。ガルフィンガングSCに代表されるプロチームは、地元に密着しております。試合の開催にはチーム独力でこぎつけられるものではなく、本来地場企業の後援があってこそです。

 しかし、その地場産業そのものが魔王侵攻の爪痕により体力が無く、そして支払を猶予されていた債権の期限が迫っていた――」


「……成程。サッカーの試合を開催するのにどうしてもお金が必要だった。そういうことだね?」


 私がそう話せば、アロディアさんは首を縦に振る。

 けれども、同時に私の中で疑問が増えた。


「うん、サッカー側の理屈は分かった。けれども、近衛兵側にその資金を提供する余裕があった……というのがどうも解せない。

 魔王侵攻の後ということは、丁度『軍縮』の時代にあたるわけでしょ? そのタイミングでよくもまあ外に出すだけの余裕があったな、と」


「……あや。それも他ならぬ『二段階制空論』の論文を作成されたヴェレナ先輩が答えを持っているかと思いますが。

 ――『近衛兵空軍創設の議論』。それが近衛兵組織内部で沸き上がったものの断念したのが丁度この時期だったのですよ」


 ……ここで航空部隊と話が繋がるか。




 *


 確かに、近衛兵で空軍を作ろうという話はルーウィンさんから伺ったことがある。あの吟遊詩人との対談以後、例の王家御用達の喫茶店にての一幕だ。

 しかし、現在に至るまで近衛兵は航空部隊を擁していない。それは、この王都・ガルフィンガングの周囲を囲むように魔法使いの航空基地を設置した『王都防空構想』が成し遂げられているため……だと私は睨んでいる。


 となると、資金の手どころは葬り去られた近衛兵空軍用の予算なのだろう。まあ金額的に釣り合っていない気もするが、様々な代替策の1つなのかもしれないし、あるいは当時空軍創設議論の真っただ中であったことを踏まえれば、空軍用の予算として正式に要求すらしていない微々たる額での調査レベルのものであったものを転用しただけなのかもしれない。


 そして、何となく思い付いたことを話す。


「……ってことは、もしかしてサッカー協会の初代会長って、近衛兵内部で航空兵科の新設を唱えて派閥抗争に敗れた人物だったり?」


「あや、流石に着眼点が鋭いですね。ヴェレナ先輩のおっしゃる通りです。

 元々の森の民サッカー協会の会長職の椅子は近衛兵組織の『左遷先の名誉職』のようなものです。勿論、建前としては『サッカー協会内部の実業団・プロなどの内部主導権争いに中立的に運営できる』という理由ですけれどもね」


 そうした経緯にて森の民サッカー協会は、ある意味では近衛兵の牙城になった、と。更にアロディアさんは付け加える。


「……まあとは言っても、それは25年も昔、私達が生まれるよりも前の話です。

 ケールスティンさんの義父が同職に就任するときには、そうした左遷や航空関連のいざこざのことはすっかり忘れ去られて、単なる天下り先としての意味合いしか無いかと」


 即ち資金援助と天下りの役職を用意する相互の関係性のみが残ったということか。


「……となると、魔錬教育省との関係は?」


「あや……あっ、もしかしてスポーツ振興を魔錬教育省が担っているって話ですか? 多分、特段気にすることはないと思いますよ。各競技組織の中の役員の出身がどこかというのは魔錬教育省も気にしない……とまでは言いませんが、変に介入する方が面倒なことになるのは明らかですので、不正や明確な犯罪行為があるという場合でも無ければ黙認するかと思いますよ」


 成程なあ。となると、この一連のブランヒルデさんの義父にまつわるあれこれは、ブランヒルデさん自身の基盤ではあれど、私達に対して何らかのアクションを近衛兵側が求めているとか、逆に示威行為であったりとかはしない訳ね。




 *


 紆余曲折を経てしまったが、結論としてはブランヒルデさんと仲良くするにあたって、特段これを気を付けなければいけないということは無さそうということになった。


 というわけで、改めてブランヒルデさんのことを女子寄宿舎で彼女が1人で居たタイミングに話しかけてみる。


「あのさ……ブランヒルデさん」


「フリサスフィス先輩、なんでしょうか?」


「ブランヒルデさんって、どこか行きたい場所って、あるかな? ……え、えーっと、ほら! 王都に来たばかりでしょう?」


「……もう1学期も終わりますが」


「……」


 思い返せば、もう7月の半ば。ブランヒルデさんが入学してから3ヶ月経っていた。


「というか、フリサスフィス先輩、誘い方が下手すぎないですか? 今までどうやって過ごしてきたんですか」


「……」


 その言葉に何も言えずに沈黙してしまう私。何というか仲良くなる前に遊びに行った経験って思い返すとあまり無い。しかもその限られた経験ですら基本的に相手からの提案であった。ソーディスさんとの映画館しかり、アロディアさんとのサッカー観戦しかり。


 その沈黙の時間は存外長くなるが、ずっと黙り続けていたブランヒルデさんが何かに思い至ったかのように声をあげる。


「……ああ、そうだ。

 フリサスフィス先輩、私、プールに行ってみたいです」


「え、プール? 確かプティドルフの運動公園にあったとは思うけれど……。

 ちなみに理由を聞いても?」


 確かに先日河川敷へ行ったプティドルフ運動公園にはプールが併設されていたけれども、今の今までほぼ無縁であったものだ。

 泳ぐことに関しては、アプランツァイト学園の初等科時代にもあそこは私立校であったことから体育の中で遊泳の授業はあったし、屋内プールも完備されていた。そして、魔法青少年学院・魔法爵育成学院のカリキュラムの中において泳ぐ技術を身に付ける機会は『教練』として存在した。


 けれどもレジャーとして泳ぐ経験は、こちらの世界に来てから無かった。スポーツ関係はアロディアさんとちょくちょく遊びに行くこともあったけれども、テニスやらフットサルやらがメインだった。

 というか、そもそも泳ぐことがこの世界においては、前世程にはポピュラーではない。理由は単純で、この世界には海が無いから泳ぐ場面がどうしても前世よりかは限定されてしまうためである。


 だからこそ、ブランヒルデさん側からそういう言葉が出てきたことに疑問が生じて、理由を聞いたけれども、彼女の返答はこんな感じであった。


「いやー、夫と行く前に下見したいし、水着も買っておきたいからですねー。行く場所が決まってないならば丁度良いかなって――」



 何というかブランヒルデさんって私のこと王都のことを教えてくれる便利屋扱いしている気がするのだけれども、気のせいだよね……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あ、さっきの感想に書き漏らしていました。 王都デートのくだり、 「ベレンガリアさん(核爆弾のひと)」 と 「ブランヒルデさん(結婚してる人)」 ごちゃってるかも。 群像劇書いてると…
[良い点] 最近、ヴェレナ先輩のいろんな面が見れて、楽しいです。 ・サッカーの時は、ヴェレナさんがリードしていく展開がかっこよかったし(いままでの舌戦の妖怪みたいな人たちばっかりでしたもんねー) ・…
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