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魔法爵育成学院3年、最終学年へと進級した。
先輩方は卒業して、大学課程である魔法学院に通う傍ら、正式な『魔法準男爵』という魔法使い、部隊指揮官としても配属されそちらの業務を行っている。とはいえ、そもそも先輩方が配属された第1師団第1旅団第7,8留守大隊とは、去年5月の軍制改革によって新設設置された部隊なので、完全充足どころかほとんど書面上ガワだけしか存在しない感じである。そういえば、私のお父さんなんて前回の魔王侵攻後の軍縮の影響で、完全に書類上の存在と化した幽霊師団の師団指揮官であった。
そういう意味では、軍制改革の内実が伴っていないのだけれども、違いと言えば留守大隊の方は拡充が既に見込まれているので全くの兵員がゼロ、というわけではなく後の下士官候補生の募集を行っているみたい。先輩らの所属した部隊は実験部隊という側面は間違いなくあって、我が国初の女性兵の活用を見越しているものではあるものの、指揮官クラスだけがぽつんと居るだけでは1000人くらい居る完全充足大隊を操ることなんて不可能だ。
先輩方や来年以降の私の役割としては、自分の麾下でより小さい規模の集団をまとめ上げることのできる人材を養成すること、そして後々はその人材である下士官候補生らが次世代の女性下士官育成に携われることが目標とされるが、どう考えても魔法爵育成学院を卒業したばかりの新人にやらせる仕事ではないので、上部組織である第1旅団や第1師団などから教育のための人材は派遣されるし、その人材派遣を円滑化する一環として大隊長については魔法爵位不相当ながらも臨時措置として第1旅団長が兼任することで、書類上の決裁の効率化が図られることとなったみたい。
旅団長に就く者は、魔法子爵ないしは魔法伯爵クラスだけど、兼任であればこういう下位の役職にも就けるみたいだね。流動的というか、魔法爵位持ちのポストを埋め組織を拡大するために役職を増やしているのに兼任を認めてしまっては本末転倒というか。
まあ、その辺りは先輩方がある程度1年間で整備してくれるであろうと期待している。特にオーディリア先輩。
私にとっての目下の課題は、新入生。
そう私の2学年下ということはアロディアさんが入学してくる年なのである。
「ぁ、あの。今年は1人新入生が入ってくるのは確定……なのですよね?」
そう聞いてくるローザさん。彼女も去年女子生徒が入学してこなかったことを地味に気にしているみたい。まあ、必要以上に王子に女子生徒を近付けないための策謀が裏で繰り広げられているからなのだろうが、そのわずか2人の女子生徒はよりにもよって連絡会議で王子と接点を作ってしまっているという有様。
「うん、ガーヒルド・アロディアさんって言うのだけれども……」
「えと、どんな人……なのですか?」
アロディアさんがどんな人かと言われると、ちょっと反応に困るな。アプランツァイト学園の系譜である以上、派閥抗争とかの動きには機敏であるし、スポーツ好きなアウトドアな印象も強い。かと思えば、料理やお菓子作りがガルフィンガング魔法青少年学院の中では女子寄宿舎の伝統ポジションとして収まりつつあろうとしているから、そっち方面も無難にこなせる。
……あれ? 結構アロディアさんって気付いてなかったけど完璧に近い人間だ!
「何でも出来る後輩って感じかな。スポーツ万能だし、料理も上手だからねえ」
「ぁ、ヴェレナさん、その……聞きたいのは中央校とか地方校とかを気にする人なのかってところだったのだけれども……」
……そっちか。
あー、確かにローザさんって入学した直後の頃は、それをすごい気にしていたな。元々地元の魔法使いから男子候補生側にある、そうした対立軸の話を聞かされていたからこそ、同じ部屋になった私のことを極度に恐れていたね。
まあ、彼女の背後に『片翼党』の存在があるし、私に対して委縮しなくなってからは、私を脅すことも増えてきているが。まあ、大方片翼党の指令ではあるのだと分かっていても、そんな入学当初の彼女の懸念を忘れさせるくらいには、現在の印象は大きく異なる。
翻ってアロディアさんが、そうした差別的な言動をするかどうか。むしろそういう二項対立の場を裁定する立場に立ち、利益を得る立ち回りをするのがアロディアさんだろう。
というか去年の魔法青少年学院を訪れた際に発覚した貴族と平民の対立構造の折にも、同様の立場を取っていた。そもそもこの魔法爵育成学院の女子生徒の中で中央校・地方校格差問題を発生させなかったのはオーディリア先輩が女子生徒という枠組みを作ろうとしたからに他ならず、更に言えばその立場のおかげで連絡会議という生徒の仲裁機関の樹立において総数としては男子と比較して圧倒的に少ないのにも関わらず1議席を代表枠として捻じ込めているのだから、アロディアさんは必ずやそのオーディリア先輩の路線を踏襲すると思う。
「まず間違いなくしないと思います。アロディアさんはタイプとして見ればオーディリア先輩に近いので……」
「……成程。理解しました」
ローザさんの中でも、オーディリア先輩って強烈な説得力のある人間だったのね。
*
「ガルフィンガング魔法青少年学院出身のガーヒルド・アロディアです。ヴェレナ先輩はお久しぶりですが、エルミンヒルト先輩はお初にお目にかかります。以後、よろしくお願いいたしますね」
「アロディアさん、また1年よろしくね」
「ぁ、はい! こちらこそ、お願いします!」
ローザさんは人見知りっぽさがあって後輩相手に敬語になっているけれども、まあ同級生の私に対しても敬語だけは抜けなかったから、しょうがないのかなあ。彼女の生い立ちを考えると周囲に居た魔法使いって一回りも二回りも年上みたいだし、単純に気質という部分以外にも、そういったところの影響はありそう。
……というか、よくよく考えたらオーディリア先輩もビルギット先輩も後輩である私に対して敬語だったわ。思った以上に全年齢に対しての敬語の使い手が多かった。
そして、今年の女子入学生はもう1人居た。
「地方校のグローアーバン魔法青少年学院出身のケールスティン・ブランヒルデと申します。お三方ともよろしくお願いいたします」
「……グローアーバン州と言いますと、著名な路面列車の会社があって大公家の元領地であるという……」
「何故、その2つを並立させたのかよく分かりませんが、フリサスフィス先輩の想像で合っていますよ。ちなみに生まれもグローアーバンです」
何となく毒舌キャラっぽさを想起してしまうのは、私が今まで毒を吐くタイプとの友好関係を築いてきた経験が長いからだろうか。ルシアにしろクレティにしろポンコツ扱いしてくるし、オーディリア先輩も要所要所でそういう対応することあるし、ラウラ先輩は身内に対しては基本口悪いし……ってやっぱ多いわ。
そしてグローアーバン州。寝台特急で通過した経験しか無いが、何かと縁がある。グローアーバン路面軌道株式会社は本業の路面列車よりも副業っぽさのある創遊事業である少女歌劇団や、水族館運営などの筋道で私と交錯している。
また大公家についても私の貴族コネクションでありルーウィンさんの幼馴染兼許嫁のフリーダさんの背後におそらく控えているであろう家、まあ貴族家に関しては現状深入りすると確実にヤバい伏魔殿としての側面しか見えてこない上に、下手に探ると王子の婚約者問題の方向性で派手に炎上しかねない政治的危険球なので、手が出せない領域でもある。
そう、王子の婚約者問題。これがあるからこそ、2学年下とはいえ王子と接触する機会があるかもしれない女子生徒はこのガルフィンガングの学校に通うことを制限され続けてきた。
私が入学できたのは、魔法使い上層部に本来学閥の指導者に上り詰めることも出来たであろうお父さんを左遷したことへの贖罪という側面が見え隠れし、ラウラ先輩は特待生制度――即ち魔法使い公務中に殉職した彼女の父親に関わる制度的な部分を突いた入学であったし、魔法爵育成学院より王都にやってきたイダリア先輩は地元の領主と関わりがある関係上、貴族側の政治的動向が内包されたものであった。
そしてローザさんは魔法使い内部の権力闘争の一環として、片翼党が主流派である学閥から利権を確保できた教育事業の権勢を全面的に利用したもの。
考えれば考える程に、そうした『訳アリ』でないと王都の魔法教育機関に通うことは許されないのだが、ではそうであった場合、このケールスティン・ブランヒルデさんが内包する要素は何であろう。
ということで、私はこの言葉を紡ぐ。
「とりあえず、この学院においては男子寄宿舎側と合わせる形で2名1室の相部屋となる……ってまあ、空き部屋凄いあるから無駄にしている感すごいのだけれどもね。
1年年上の先輩方が卒業したので今では私とローザさんが1部屋使っているだけだし……」
部屋余っているのだから1人1室で良い気はずっとしているけれども、そこは制度的な部分なので仕方ない。まあ、別にローザさんと同室なのが嫌な訳でもないから良いのだけれども、やっぱり無駄が多い。
で、この言葉に関して、しっかりとアイコンタクトの上で頷いたのが、アロディアさん。言外に含んだ意味を汲んでくれたようである。
即ち、同室となるアロディアさんからブランヒルデさんに探りを入れて欲しい、ということ。この辺りの理解の早さは、やっぱりアロディアさん相手だからこそだよなあ、という感じ。
*
3年に入ると、今までの一般的な学科教育はほぼ消失し、軍事教育が主体となってきた。
ひたすら穴を掘って埋めることが毎授業繰り返しで行われる野戦築城演習という苦行や、射撃演習や魔法の実習も毎週定期的に行うようになった。まあ魔法の実習と言っても、この世界の魔法って基本、魔法増幅装置の存在が前提になるから機械的機構に刻まれた魔法陣に魔力を通して運用する形が多いので、何かやることはひたすら地味だ。普段は自動制御で魔力を流している装置に対して、手動で魔力制御を行いながら、増幅装置機構部分全域に魔力を行き渡らせる訓練で、正直ただひたすらに精密作業を要求されているようなやつで全然楽しくはない。
しかも、基本的に他の演習では自動制御なのだから、魔法実習は役に立っている感が無いのである。
そして座学もがらりと様変わりした。軍事利用されている各国の魔法技術に関する知見を高める軍事魔法学、各国の法規や国際的な取り決めを学び紛争時に他国を相手取ったときの禁足事項や逆に共同作戦を取る際の留意点などを司法的知見から学ぶ国際法学、森の民の魔法使い組織の編成状況や組織体系を学ぶ軍制などなど多岐に渡る。勿論一般に軍事の座学として想像されるような戦術や戦史に関する授業もあるし、直接戦闘に関わるものでは無いものの、軍事作戦行動に強く影響を受けることになる鉄道・衛生・築城などの基礎知識と取扱いを座学で学ぶのである。
やっぱり学ぶことが多いわ、この学院。どう考えても詰め込み過ぎで、通常の高校課程の授業と合わせて3年間で指揮官としての教育も行うとか常軌を逸している。まあ、それをこの学院に居る人間は毎年こなしているから変わるわけは無いのだけれど。
そんな過密気味の日常をこなしていた、とある日。アロディアさんが件のことについて報告するために私とローザさんの部屋にやってきた。
なおローザさんも同席。ブランヒルデさんがどのような人物か知るのは、片翼党側も知りたいようで。まあ、ここは恩を売ってもいいかと了承。
「……えっと。アロディアさんが調べた限りでは、何も分からなかった、と?」
「あや、そうですね。確かにヴェレナ先輩の見立て通り、この学院に入学するためには『普通に』優秀であること以外に何かあるはずなのですが……。
魔法使い上層部や内部派閥との関わりがどうも無さそうです。実家は地主という話は聞きましたが、別に際立って妙な点も無いのです」
――ということは。
まさかのブランヒルデさんって、背後関係なしの入学者ってこと?




