↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/28

16話 あの時助けていただいた、亀です

――私の名前はテストゥード・オセアン・マレ

――マレ王国の第五王子だ


その名乗りが、ずしんとエミスの胸に重くのしかかった。


「テストゥード……さま」


エミスが始めて、本当の名を口にした。

するとテストゥードは、弾けるようにうれしそうな笑顔を見せた。


「やっと、呼んでもらえた。俺の名前」

その笑顔が、見つめる瞳が優しすぎるから苦しくなる。


マレ王国――海に囲まれた豊かな国。

ケローネ改め、テストゥードは異国の王子様。


マレ王国とこの国は親交が深く、立太子した第一王子や第二、第三王子の活躍は平民のエミスでも少しばかり耳にしていた。

しかし、第五王子の話は全く知らない。

王子としてのテストゥードは未知の存在だ。


今朝までとエミスもテストゥードも、何ひとつ変わっていない、それなのに全てが変わってしまった。


本来ならこんなに気軽に話すことは許されないし、ましてパーティでエスコートされるはずもない。


エミスは平民なのだから。


しかも正体を知らなかったとはいえ、ペットの亀の名前で王子様を呼んでいたのだ。


これは、不敬すぎるのでは。


黙り込んでしまったエミスを、まるで自分が悪いことをしてしまったように、困った表情を浮かべ見つめるテストゥード。


彼は何も悪くない、何も変わっていないと分かっている……だけど、それでも……。


余りにも重たい事実に、エミスは気持ちの整理がつかない。


室内には沈んだ空気が漂っていた。


コンコン


再びドアをノックする音がした。


「失礼いたしますぞ」

そう言って、返事も持たずにホヌが入ってきた。


「殿下、自己紹介は終わりましたな?ではお次の方ですぞ」

部屋に漂う、重苦しい空気に気づかないのかお構いなしなのか、ホヌはさっさと話を進めようとする。


そして、その手元に乗っているものに、エミスは目を見開いた。


ホヌの手の上には、上質そうな小さな座布団。

そしてそこに、ちょこんとおとなしく鎮座する、緑色の物体。


エミスはゆっくりとホヌに近づくと、その緑色の物体に顔を寄せた。


「……かめ」


エミスがゆっくり顔を上げて、ホヌを見る。

「ええ、かめさんです」

ホヌは、笑顔でゆっくりと頷いた。

「もしかして……いや、もしかしなくても」

その声を待っていたかのように、ホヌは続けた。


「はい、あのとき街外れの用水路でエミス様に助けて頂いた、ケローネ様でございます!!」


おとなしく座っていた亀が何故か「えっへん」と偉そうに返事をした気がする。


「ケローネ!!本物の!?生きてたの!?」

先ほどまでの重苦しい雰囲気は、エミスの驚きに掻き消された。

「ええ!?まって!?なんでケローネを死んだと思ってたの!?」

予想外のエミスの反応に、テストゥードが悲痛な声で短い悲鳴を上げた。


「え……だって、丸太小屋のケローネの水槽、ずっと空だったから」

「あ……ああ、なるほど、それでか。ケローネの食欲が急に落ちたから、慌てて獣医に見せに行ったんだ……ほらあの」

テストゥードが、少し言いにくそうに言葉を濁す。

「エミスをさ……攫った日に、眠ってるエミスを置いて俺外に出たでしょ?」


昨日のことのように、テストゥードとの出会いを思い出した。

(……私、亀の柄のペーパーナイフ突きつけたな)


最悪だ、出会い方としては最悪の出会い方。

それが、こんなに好きになってしまうなんて、あの日の自分に聞かせたら驚きで倒れてしまうかもしれない。


「プッ……ふふふ」

思い出したら、おかしくかなってきた。


その笑顔に、テストゥードもほっと胸をなで下ろした。

ホヌが満足気に、手元の亀と視線を合わせたようにみえた。


「ケローネ様も、エミス様を応援しておりますよ」


そう言うホヌの手元のケローネは、心無しか『俺たちいい仕事したな』と言っているような顔に見えるから不思議だ。


「エミス様、これより緑宴会です。殿下のパートナーとして、あなた様は十分に貴族と渡り合える武器をお持ちですよ」


一転して、室内の空気がピリッとする。


「それに、このホヌがマナーを叩き込んでおるのです。ご安心なさいませ。エミス様はどこに出しても恥ずかしくない、立派な淑女でございます」


ホヌは、二人に向かって深々と礼をする

「いってらっしゃいませ」


テストゥードは、エミスの手を取る。

「さあ、いこうかエミス!!」


差し出されたその手首に、エミスとお揃いのブレスレットが光る。


王子様には不似合いな、安物のガラス玉のブレスレット。その手をとるエミスの手首にも、色違いのブレスレットが揺れる。


エミスは、テストゥードの手をギュッと握る。


――大丈夫。 

ふぅと短く息を吐いて、テストゥードを見上げる。


「うん!行こう!ケロー…じゃなかった」

慌てて口を塞いだ。

「ははっ、ケローネでもいいよ」

「いや、さすがに亀さんの名前で王子様を呼べないよ……」

エミスが申し訳なさそうに言うと、テストゥードは少し考えた。

「あ!じゃあ、“テス”ってよんで。これなら、短くて言いやすいだろ?」


――変わらない。王子様だと分かっても、彼は彼のままだ。エミスの大好きな彼のまま。


「ホヌさん、行ってきます!」

ホヌに向かって笑顔を向ける。その自信に満ちた笑顔を見て、ホヌは力強く頷いた。


「行こう!テス!」

「ああ」


二人は、固く手をつなぎ部屋の扉を開けた。



勿体ぶってましたが、やっと亀さんが登場しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。