第1章 はじまりの刻 4
「う…兎…?」
迅さんは目をぱちくりさせながら呟く。
「うさぎだキュー」
そう言いながら目の前のうさぎが話す。
「それがうさぎにしては何か不自然なんですよね…
しっぽが丸くないところとか…」
そう言いながら薫さんはうさぎを観察する。
「当たり前だキュー!我の真の姿は兎じゃないキュー」
「うさぎじゃないの!?」
思わず声に出してしまった。
「そうだキュー、うさぎの姿をご主人が望んだからうさぎの姿で、現れてやったキュー」
(なんて健気な子…)
「そういえばご主人、ご主人の名前は何て言うの?」
「翠だよ!翡山 翠」
「翠、いい名前だキュー。よろしくキュー。」
「こちらこそよろしくね。」
「翠、使い魔に名前付けてあげてごらん」
雹くんが告げる。
「そうだな〜、キューキュー鳴いてるからキューちゃんはどう?」
「キュー!!」
キューちゃんは気に入ったようで嬉しそうに鳴いた。
「…そのままかよ」
と煉さんが呟いたので私は睨んでやった。
すると突然キューちゃんの身体が光に輝き私の翡翠の首飾りと共鳴している。
光が治まると、私の翡翠の首飾りには小さな緑の勾玉のみだったが白の勾玉が加わっており、更にキューちゃんの姿が変わっている。
どう見ても9本の尾が生えている狐だ。
「き、狐!?」
「そうキュー、我は妖狐だキュー!
それにえっへん!我はただの妖狐ではないキュー!
九尾の狐だキュー!」
「えぇぇぇぇ!?キューちゃん、そんな凄い狐だったの!?」
(…手のひらサイズでほわほわと浮いている可愛らしいキューちゃんからは想像できない)
「疑ってるキュー!
我は自在に姿や形、大きさまで変えられるキュー!」
そう言って大きな九尾の狐へと姿を変える。
「す、すごいよキューちゃん!!!
頼もしすぎる!!」
「えっへん!キュー!」
そう言いながらキューちゃんは元の手のひらサイズの姿へと戻った。
私とキューちゃんのやり取りを皆は黙って見ている。
「それにしてもまだ成人の18歳に満たない守護者もいるのによく翠を呼び寄せられたキュー。褒めるキュー。」そう言いながらキューちゃんは5人を見る。
「知らないキュー?守護者5人が集まって儀式をして巫女を呼び寄せるんだキュー」
「…そうなの?」
「そうです。本当は2ヶ月後の煉の成人まで待ちたかったんですが、もはや僕達の力では抑えるのが難しい状態になってしまいました。ただ煉の霊力は申し分ないと判断し召喚の儀を行いました。」
と薫さんが説明する。
(…ん?この世界って18歳が成人なんだぁ。
というか2ヶ月で18歳って…)
「お、同い年…!?」
思わず驚いて煉さん、いや煉を指差してしまった。
「…うるせぇ、悪いか」
「悪くないけど…同い年に見えなかったって言うか…」
「お前がガキすぎるだけだ」
「うーわ!そういう事言う!?」
「まあまあまあ、煉も翠も同い年なんだし、仲良くしようぜ!」
そう言いながら迅さんは私と煉の手を掴み強引に握手させた。
そして煉は強引に手を振りほどき何処かへ行ってしまった。
その後キューちゃん、薫さん、迅さん、雹くん、陸さんと話していて分かったことがある。
薫さんが23歳の最年長、迅さんと陸さんは20歳、雹くんが18歳、そして最年少が煉の17歳だ。
そしてこの世界の事、季節や日付、時間の概念等は私が元にいた世界と何ら代わりがないこと。
「さあ、お開きにしますか。翠さんもこの世界に来たのが今日の今日です。
疲れているでしょう。お付きの者を呼びますから早く休んでください。」
薫さんの言葉でお開きとなった。
「失礼致します。お付きの灯火と申します」
皆と入れ替わるように1人の女性が広間に入ってきた。
綺麗な黒い髪をひとつに纏め、赤い瞳が揺れている。
女給さんの格好をしているが、華やかな顔立ちで目が離せない。
(それに、誰かに似ている…)
「…どうかしましたか?」
「あ、いえ、誰かに似てるなぁ〜と」
そう答えると
「…煉にですか?」
そう言って柔らかく微笑む
「あ、はい…でもどうして分かったんですか?」
「それは私が煉の姉だからです」
そう言っていたずらに笑う彼女は本当に美人だ。
「ここで巫女様、翠様にお仕えしていく人達は皆守護者の兄弟や姉妹なのです。」
「そ、そうなんですね!」
「はい、なので遠慮なくなんなりとお申し付けくださいね」
そう言って部屋を案内してもらった。
「ひ、広い…」
「巫女様専用のお部屋ですから」
「あの、巫女様とかって何かしっくり来なくて…灯火さんは年上ですし…翠って呼んでくださると嬉しいんですが…」
「ですが…」
「お願いします!」
「…分かりました。では身内の前だけでなら…」
「困らせてすみません、それで大丈夫です」
「…ではおやすみ、翠ちゃん」
「おやすみなさい灯火さん」
そう言って灯火さんは部屋を去っていった。
そして私は部屋を改めて散策する。
和洋風の屋敷、部屋にはシャワーもトイレも完備
「ほぼホテルだ…」
そう言いながら私はベッドへと身を沈めた
(今日は色々あったなぁ…
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、萌葱…何してるかな…早く会いたいよ…)
絶対元の世界に戻るんだから!
そう思いながら私は目を閉じ、意識を手放した。




