第1章 はじまりの刻 2
「…ん」
気が付けば私は床に倒れていた。
立ち上がって辺りを見渡すと、祭壇の前ではあるがいつもとは違う雰囲気を感じる。
見た目はいつもの祭壇のはずだが何故か違うと感じる。
(ここは、どこなの?)
先程の光といい、明らかにおかしい現象に胸がザワつく。
(確かめなきゃ…)
下駄箱の中のローファーを取り出し、履いて外に出ると目の前に広がった景色に驚いた。
翡山神社ではないのだ。
境内に出て鳥居をくぐり抜け鳥居額を確認するとそこには
―翡翠神社―
と書かれていた。
「翡翠…神社?」
私は神社の娘だ。
日本にある神社は大体は把握してある。
だけど翡翠神社は耳にした事もない。
(ここはどこなの…?)
とりあえず私は元の場所に戻る方法を考えた。
(そうだ!!私は日課のお祈りでここに来てしまったのだ。だとすればもう1度お祈りすれば!)
私は急いで祭壇に戻りもう1度祈りを捧げる。
しかし何も起こらなかった。
(何がどうなってるの…?)
諦めずに何度も何度も祈りを捧げたが状況は変わらない。
ここに居ても状況は変わらないと悟り境内へ出ると鳥居の外に人影が見えた。
「晶…?」
そう思い人影に向かって走ると
「おい、何をしている」
と後ろから聞こえると同時に手首を掴まれた。
(え?後ろに人いたっけ…?)
咄嗟に振り返ると赤い瞳に漆黒の髪の男が立っていた。
漆黒を基調とした広袖の神官装束のようなものに、深紅の差し色と金装飾があしらわれている。袴は金の植物文様が描かれ気品と威厳を兼ね備えており腰には黒鞘の刀が差されていた。
更に漆黒の髪と深紅の瞳が神秘性を際立たせており思わず息を飲む。
端正な顔立ちに見とれていると、
「お前、名は?」との問いかけにハッとする。
「翠です!翡山 翠です!」
「翠さんですか。」と漆黒の髪の男とは違う声が聞こえ、その方向を向くとそこには銀髪で長髪の細身の男がいた。
白を基調とした広袖の羽織に、ターコイズブルーから群青へと流れる水彩グラデーションと繊細な花柄が施されている。中には白い着物と灰青色の袴を履いており、金色の組紐や房飾り、手に持っている扇子が格式を感じる。
「綺麗な髪と目をしていますね、翠さん。
僕は薫、こちらは煉です。
よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」とぺこりと頭を下げると薫さんはにっこりと微笑んだ。
「私、気付いたらここに居て…何も分からなくて…でもそこの鳥居の外にいる人が知り合いに見えて…」
そう話すと薫さんは不敵な笑みを浮かべながら
「…知り合い…ねぇ…」
と鳥居の外の人影に目線をやった。
「お前、あれが人に見えるのか?」
煉さんに問われ思わず鳥居の外の人影を見る。
よく目をこらすとそこにいるのは人ではなく、人の形をしている黒色モヤの何かだった。
(晶…じゃない…)
そう思うと同時に私は落胆した。
晶とは黒河 晶、同い年の幼なじみだ。
いつも一緒に登校する幼なじみの男の子で小さい頃から仲が良い。
晶は神社やお寺の雰囲気が苦手で入りたがらず、いつも鳥居の外で待ってくれていた。
だから勘違いしてしまったのだ。
「誰だか知りませんが、君の知り合いがこの世界に存在するはずがありません。」
そう言いながら薫さんは私の肩に手を置く。
「存在しないって…どういう事ですか?」
「つまり君は別の世界から来た、いわゆる異世界人。
君からしたら僕達が異世界人。」
と言いながら屈託のない笑みを向けられる。
全身から血の気が引くような感覚を覚える
「異…世界?…じゃあここに…日本は無いんですか…?」
「日本?君は日本という所から来たんですか?
ここは陽宝王国と言って翡翠の加護の地。それで君は…」
「そんな!どうして…」と薫さんの言葉を遮ると
「それは俺達が翡翠の守護者でお前が翡翠の巫女だからだ」と煉さんが告げる。
私は咄嗟に言い伝えを理解する
〜守護者に呼ばれる地に降り立つ時まで毎日祈りを捧げよ〜
守護者に呼ばれる地とは異世界だったのだ。
「その…帰れる方法はあるんですか?」
私の問いに薫さんは困った顔で答える。
「今の僕達には分かりません。
それに知っていたとしても教えません。
君にこの世界を救って貰わないといけないのですから」
「じゃあ…「ですが、この世界を救いながら元の世界に戻る方法を探るのは協力してあげられます。」
その言葉にハッとする。
…そうだ、私は翡翠の巫女に選ばれたのだ。
ならば翡翠の巫女としての役目を果たさなきゃいけない。
「分かりました!巫女として協力を約束します。なので元の世界に帰る方法を探すのを協力してください、お願いします!」
深々と頭を下げると2人が少し微笑んだ気がした。
「付いてこい、皆待ってる…」
そう言って煉さんは境内の奥へと歩み始める。
私はその言葉に首を傾げる。
「…皆?」
「守護者は僕達だけじゃないって事だよ♪」
薫さんは私の背中をぽんと軽く押し、煉さんに続く。
「ま、待ってください…!」
私はそう叫びながら小走りで2人を追いかけるのだった。




