第90話 初恋? そんなの無意識に。
電柱に頭をぶつけてから、ロン毛は自然と話せるようになった。
ギターと挨拶をし、
雲に愚痴を聞かされ、
失業して先の見えない毎日だったが、ロン毛は不思議と以前より穏やかになっていた。
ロン毛 「変な毎日だな。」
「まあ、悪くないか。」
そんなロン毛を、イデア界から見つめる少女がいた。
虹。孤独だった七色の心。
人々を笑顔にする存在。
そんな虹は、最近あることに気づいていた。
虹 「また見ちゃってる。」
ロン毛が猫と遊んでいる。
虹 「楽しそう。」
ロン毛がギターを弾いている。
虹 「今日は調子いいみたい。」
ロン毛が面接をしている。
虹 「大丈夫かな……。」
気づけば、毎日ロン毛のことを見ていた。
アシスが呆れたように笑う。
アシス 「また彼を見てるのかい?」
虹 「うん。」
ナムネ 「好きなの?」
虹 「好き?」
虹は首をかしげる。
虹 「分かんない。」
虹「でも、なんか気になる。」
虹「今日は元気かなって思うし。」
虹「笑ってると嬉しい。」
虹「悲しそうだと心配になる。」
虹「変かな?」
ナムネは少し微笑んだ。
ナムネ 「変じゃないよ。」
ある日。
ロン毛がセミの命を守ったのだ。
虹はその様子を見て、思わず笑った。
虹 「優しい。」
アシス 「どうして気になるんだろうね。」
虹 「分かんない。」
虹「でも。この人、放っておけない。」
虹「なんか、ずっと一人で頑張ってる感じがする。」
ナムネは優しく虹を見つめた。
ナムネ 「それは大事な気持ちだよ。」
虹 「そうなの?」
ナムネ 「うん。」
「すぐに名前をつけなくてもいい。」
「気になるなら、気になるままで。」
虹は嬉しそうに頷いた。
虹 「じゃあ、そうする。」
アシスは小さく笑う。
アシス 「虹。」
虹 「なに?」
アシス 「それ、たぶん長くなるよ。」
虹 「いいよ。」
虹「私、長いの得意だから。」
何百年もの孤独を過ごしてきた虹にとって、誰かが気になるという感情は初めてだった。
恋なのか。
憧れなのか。
それとも、もっと別の何かなのか。
まだ虹には分からない。
ただ一つ確かなことは。
雨上がりの空に現れるたび。
ロン毛が少しだけ空を見上げて、
ロン毛 「虹色って綺麗だな。」
そう呟くたびに。
虹の胸の奥が、ほんの少し温かくなることだった。




