第87話 アシスとナムネと虹
昔昔のお話。
七色の橋が初めて空にかかった日から、世界は少しずつ変わっていった。
雨を嫌っていた人々は、雨上がりの空を待つようになった。
旅人は虹を道しるべとし、子どもたちは七色を見つけるたびに笑顔になった。
人々は口々に言った。
村人 「虹を見ると元気が出る。」
村人 「きっと幸せを運んでくれるんだ。」
その噂は山を越え、海を越え、遠い国々にまで広がっていった。
しかし、虹を生み出したアシスとナムネは少しも驕らなかった。
アシス 「虹は僕たちのものじゃないよ。」
ナムネ 「光と水が出会って生まれる、みんなのものだもん。」
二人はその後も旅を続けた。
乾いた土地に水を運び、争う人々を仲直りさせ、悲しみに暮れる人には空を見上げることを教えた。
長い年月が流れ、二人はすっかり年老いていた。
ある雨上がりの日。
丘の上で並んで空を見上げながら、アシスが微笑んだ。
アシス 「ナムネ。最初に君と出会った日のこと、覚えてる?」
ナムネ 「もちろん。空には色が足りないって話した日でしょ?」
アシス 「たくさん失敗したね。」
ナムネ 「でも、楽しかった。」
二人が笑い合ったその時、空いっぱいに大きな虹が現れた。
今まで見たこともないほど美しい、七色の橋だった。
風が優しく吹き、木々がざわめく。
すると、空の彼方から声が響いた。
「世界に希望を与えし者たちよ。」
「汝らの歩みは、数え切れぬ命を笑顔にした。」
「その功績を称え、永遠に世界を見守る存在となることを願う。」
アシスとナムネは顔を見合わせた。
その瞬間、二人の身体は光に包まれた。
アシスは風と木々、川や大地の声を聞く力を授かり、「調和を司る神」となった。
ナムネは人々の思い出や願いを優しく守る力を授かり、「記憶を司る神」となった。
そして二人は、人々の目には見えない国『イデア界』に住まうようになった。
アシスは季節を巡らせ、自然が争わぬよう調和を保った。
ナムネは人々の大切な思い出を星のように集め、悲しみに沈む者には優しい記憶を届けた。
そして、二人が共に空を見上げる時、世界には必ず虹が現れるという。
その七色の橋は、人々の心と心を結ぶ希望のしるしとなった。




