第86話 ロン毛の答え
ナムネ「お前はどうする?」
静寂が訪れる。
風も止まり、鳥の声も聞こえない。
ただ、四人の呼吸だけが静かに響いていた。
虹は俯いていた。
アシスは笑顔を作っていた。
ナムネは涙を堪えながら、
ロン毛の答えを待っていた。
ロン毛はゆっくりと目を閉じる。
初めて電柱と話した日。
風と笑った日。
キズナやギター、数え切れないくらい出会った。
そして、虹と過ごした日々。
全部、大切だった。
全部、失いたくなかった。
虹「言わないで。」
虹「お願い。」
虹「そんな顔しないで。」
虹「私のことなんか選ばなくていい。」
アシス「そうだ。」
アシス「好きにしろ。」
アシス「誰もお前を責めない。」
しかし、ロン毛は静かに顔を上げた。
そして、優しく笑った。
ロン毛「虹が幸せなら、それでいい。」
虹「え……?」
ロン毛「俺は普通の人間に戻る。」
ロン毛「また一人になってもいい。」
ロン毛「自然の声が聞こえなくなってもいい。」
ロン毛「全部忘れてもいい。」
ロン毛「虹が笑ってくれるなら。」
虹「嫌だ!」
虹「そんなの嫌!」
虹「やっと会えたのに!」
虹「また一人になるなんて嫌!」
ロン毛「一人じゃないよ。」
虹「お前は笑ってる。」
虹「アシスも生きてる。」
虹「世界も続いていく。」
虹「それで十分だ。」
虹は声を震わせた。
虹「なんで……。」
虹「なんでそんなこと言えるの……。」
ロン毛「好きだから。」
ロン毛「好きな人が幸せなら。」
ロン毛「それでいい。」
ロン毛「俺は、それで幸せだ。」
虹は泣き崩れた。
アシスも俯いていた。
笑顔のまま、
涙が頬を伝っていた。
アシス「バカ野郎……。」
アシス「最後までお前らしいな。」
そして、ナムネもまた涙を流していた。
ナムネ「本当に。」
ナムネ「本当にそれでいいの?」
ロン毛「ああ。」
ロン毛「後悔はしない。」
ロン毛「たとえ全部忘れても。」
ロン毛「俺が幸せだったことだけは変わらないから。」
ナムネは唇を噛み、
溢れる涙を拭った。
ナムネ「……かなわないな。」
ナムネ「君にそんな顔で言われたら。」
ナムネ「もう、泣くしかないじゃないか。」
虹「ロン毛……。」
ロン毛「泣くなよ。」
ロン毛「笑ってくれ。」
ロン毛「お前の笑顔が好きなんだから。」
虹は涙を流しながら、必死に笑顔を作った。
アシスも笑った。
ナムネも笑った。
そして、止まっていた風が再び吹き始める。
花が揺れる。
空に七色の光が広がる。
長い旅の果てに、
ロン毛は自分の答えを選んだ。
それは、誰かのために、自分の全てを手放す、優しくて、少し寂しい答えだった。
しかし、その顔はどこまでも穏やかだった。




