第75話 ナムネとアシス
部屋の奥から足音が聞こえる。
そして。
見覚えのある少女が姿を現した。
ナムネ「久しぶり。」
ロン毛「ナムネ!」
風「戻ってきた!」
ナムネ「久しぶり。」
ナムネはアシスの隣に座る。
二人はどこか似ていた。
優しい目。
寂しそうな笑顔。
そして。
二人とも少しずつ身体が透けていた。
ロン毛「お前ら。無理してんだろ。」
アシス「えへへ。」
ナムネ「見られちゃった。」
ロン毛「笑ってる場合かよ。」
ナムネ「そうだね。」
アシス「でも、話さなきゃ。」
ロン毛「?」
ナムネ「虹のこと。」
アシス「君は、虹を特別な一人の女の子として見てる。」
ロン毛「ああ。」
アシス「それは間違ってない。」
ナムネ「でも、虹はもっと大きな存在。」
ロン毛「大きな存在?」
アシス「私とナムネが昔。」
アシス「世界の色から生み出した。」
ロン毛「!」
ナムネ「紅葉の赤。」
アシス「かぼちゃの橙。」
ナムネ「電柱の黄。」
ナムネ「森の緑。」
アシス「水族館の青。」
ナムネ「夜の藍。」
アシス「おいもの紫。」
二人「君が見てきたいろんな色。」
ロン毛「……。」
アシス「全部、虹と繋がってる。」
ナムネ「だから、虹が消えれば。」
アシス「色も消える。」
ロン毛「え。」
アシス「全部。」
二人「灰色。」
ロン毛「そんな。」
アシス「そんなことになったら世界そのものが寂しくなるだろ。」
ロン毛は言葉を失った。
自分が好きだった夕焼け。
桜。キズナ。ギター。夏の空。数え切れないものの数々。
そして。
初めて出会った春の日の虹。
ロン毛「虹は、そんな存在だったのか。」
ナムネ「なのに。」
アシス「本人は、普通の女の子になりたがってた。」
ナムネ「団子食べて。お茶して。恋して。幸せそうだった。」
アシス「笑ってて。」
ナムネ「それだけで幸せだった。」
アシスは机の上の日記を見つめる。
『また会いたい。』
『また一緒に散歩したい。』
『好きって言いたい。』
『ロン毛ともっと笑いたい。』
アシス「本当に、普通の子だった。」
ナムネ「だから、助けてあげて。」
ロン毛「……。」
アシス「世界のためじゃない。」
ナムネ「色のためでもない。」
アシス「虹のために。」
ロン毛「……ああ。」
ロン毛「会いに行く。今度こそ。」
ロン毛「一人にしない。」
その言葉を聞いて。
アシスとナムネは微笑んだ。
しかし。
窓の外。
花畑の赤い花が。
少しだけ色を失っていた。
そして夕焼けの空も。
どこか薄く寂しい色になり始めていた。




