第8話 森とロン毛
夕方。
誰もいない公園。
ブランコが風に揺れていた。
ロン毛はベンチに座っていた。
ギターケースを足元に置いて。
空を見上げて。
何も考えないようにしていた。
でも。
考えてしまう。
ライブのこと。
仕事のこと。
昔のこと。
未来のこと。
気づけば、ため息ばかりだった。
すると。
風 「ため息、多い。」
ロン毛 「そうか。」
風 「うん。」
ロン毛 「疲れた。」
風 「知ってる。」
ロン毛 「なんで。」
風 「毎日見てるから。」
ロン毛 「そっか。」
しばらく沈黙。
遠くで子供たちの声。
夕焼け。
草「変な男泣いてて草www」
ロン毛の目から涙がこぼれた。
ロン毛 「なんでだろ。」
風 「ん?」
ロン毛 「別にすごく悲しいわけじゃない。」
風 「うん。」
ロン毛 「なのに。」
風 「うん。」
ロン毛 「止まらない。」
風 「泣けばいい。」
ロン毛 「情けない。」
風 「なんで?」
ロン毛 「男だから。」
風 「関係ある?」
ロン毛 「分からん。」
風 「私は風だから分からない。」
ロン毛 「だろうな。」
風 「でも。」
ロン毛 「うん。」
風 「泣きたい時に泣かないと、苦しくない?」
ロン毛 「……。」
風 「泣いてるロン毛も、ロン毛だよ。」
ロン毛 「かっこ悪い。」
風 「かっこ悪くていい。」
ロン毛 「なんで。」
風 「かっこいい人ばっかりだったら、つまらない。」
ロン毛 「変なやつ。」
風 「よく言われる。」
ロン毛は少し笑った。
でも。
涙は止まらなかった。
ロン毛 「悔しい。」
風 「うん。」
ロン毛 「もっと上手くやれると思ってた。」
風 「うん。」
ロン毛 「もっと楽しいと思ってた。」
風 「うん。」
ロン毛 「大人って難しいな。」
風 「子供も難しい。」
ロン毛 「お前、子供だったのか。」
風 「知らない。」
ロン毛 「知らんのかい。」
風 「えへへ。」
夕焼けが赤くなる。
ブランコが揺れる。
すると。
ブランコ 「キー……。」
ロン毛 「なんだ。」
ブランコ 「久しぶり。」
ロン毛 「お前もしゃべるのか。」
ブランコ 「子供の頃、よく乗ってた。」
ロン毛 「そうだっけ。」
ブランコ 「泣きながら来た日もあった。」
ロン毛 「そんなこともあったな。」
ブランコ 「でも。」
ロン毛 「うん。」
ブランコ 「そのたびに、また笑って帰ってた。」
ロン毛 「……。」
風 「だから大丈夫。」
ロン毛 「何が。」
風 「今日泣いても。」
ブランコ 「明日はまた来る。」
ロン毛 「そうかな。」
風 「うん。」
ブランコ 「私はずっとここにいる。」
風 「私はまた吹く。」
ロン毛は涙を拭いた。
ロン毛 「ありがとう。」
風 「どういたしまして。」
ブランコ 「またおいで。」
ロン毛 「泣きに?」
風 「笑いに。」
ブランコ 「どっちでも。」
夕焼けの公園。
誰もいない。
でも。
一人じゃなかった。
ロン毛は立ち上がる。
ギターケースを背負う。
そして小さく笑った。
ロン毛 「よし。」
風 「帰る?」
ロン毛 「うん。」
風 「おかえり。」
ロン毛 「まだ帰ってない。」
風 「えへへ。」
風が優しく吹き抜けた。
公園のブランコが、小さく揺れていた。
ふと公園を見た時、ブランコが揺れていたら、君にエールを送ってるかもしれない。
大人だって公園で遊んでいいじゃん。
そう言える大人になりたい。
大人になっても泥みたいなコーヒーはまだ苦い
そんなもんだ。
味に敏感なのは子供だ、まだ苦いのはまだ子供ってことかもしれない。




