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虹とロン毛  作者: かいちょ
第1章 自然との日常
7/69

第7話 風は吹き続け、電柱は立ち続け

夕方。

いつもの帰り道。

ロン毛はギターケースを背負いながら歩いていた。


すると。

電柱 「おい。」

ロン毛 「なんだ。」

電柱 「今日も下手だったな。」

ロン毛 「うるさい。」

電柱 「音外してたぞ。」

ロン毛 「知ってる。」

電柱 「声も小さい。」

ロン毛 「知ってる。」

電柱 「覇気がない。」

ロン毛 「だから知ってるって。」

電柱 「それでいいのか。」

ロン毛 「……。」



今日は機嫌が悪かった。

ライブハウスのオーディションに落ちた日だった。


電柱 「悔しくないのか。」

ロン毛 「うるさい。」

電柱 「もっと頑張れ。」

ロン毛 「うるさい!」

静かな住宅街に声が響いた。



電柱 「……。」

ロン毛 「なんだよ。」

電柱 「何怒ってる。」

ロン毛 「お前だよ!」

電柱 「俺?」

ロン毛 「そうだよ!」

電柱 「なんで。」

ロン毛 「毎回毎回!」

「下手だとか!」

「頑張れとか!」

「知ってるんだよ!」

「一番分かってるのは俺なんだよ!」

「好きで下手なんじゃない!」

「好きで落ちてるんじゃない!」

「もう疲れてるんだよ!」




電柱は黙った。

ロン毛 「お前なんか!」

「ただ立ってるだけじゃないか!」

「俺の何が分かるんだよ!」



しばらく沈黙。

すると。



風 「だめ。」



優しい風が吹いた。

ロン毛 「風か。」

風 「言い過ぎ。」

ロン毛 「……。」

風 「電柱、泣いてる。」

ロン毛 「え?」

電柱 「泣いてない。」

風 「泣いてる。」

電柱 「泣いてない。」

風 「泣いてる。」

ロン毛は初めて見た。

電柱が少し寂しそうにしているのを。

電柱 「俺は。」

ロン毛 「……。」

電柱 「俺は、ずっと見てた。」

ロン毛 「え?」



電柱 「お前がギター始めた日も。」

「夜遅くまで練習してた日も。」

「一人で泣いてた日も。」

「変なやつと笑って帰ってきた日も。」

「全部。」



ロン毛 「……。」



電柱 「だから。」

「もっとできると思った。」

「もっと遠くに行けると思った。」

「だから言った。」

「悪かった。」



風 「電柱、不器用。」

電柱 「うるさい。」

風 「でも優しい。」


ロン毛は下を向いた。

ロン毛 「ごめん。」

電柱 「なんで。」


ロン毛 「言い過ぎた。」

「ただ立ってるだけなんて。」

「ごめん。」



電柱 「気にするな。」


ロン毛 「でも。」


電柱 「俺は立つことしかできん。」

「でも。」

「お前が帰ってくるのを待つくらいはできる。」


ロン毛 「なんだよ、それ。」

電柱 「事実だ。」

「朝、行ってらっしゃい。」

「夜、おかえり。」

「それくらいしかできん。」


ロン毛は笑った。

ロン毛 「十分だよ。」

電柱 「そうか。」

ロン毛 「うん。」


風 「仲直り?」

ロン毛 「たぶんな。」

電柱 「たぶん。」



風は嬉しそうに吹き抜けた。

風 「よかった!」

夕焼けが町を赤く染める。

電柱の影が長く伸びる。

ロン毛 「なあ。」

電柱 「なんだ。」

ロン毛 「また下手だったら言うか。」

電柱 「言う。」

ロン毛 「優しくな。」

電柱 「努力する。」


風 「電柱、優しく言えるかな。」

電柱 「無理かもしれん。」

ロン毛 「だろうな。」

三人は笑った。

風 「ロン毛。」

ロン毛 「なんだ。」

風 「夢って。」

「追い風の日もある。」

「向かい風の日もある。」

「止まっちゃう日もある。」

「でも。」

「風はまた吹くよ。」


ロン毛 「……。」

電柱 「俺は動けんから知らん。」

風 「電柱はそういうこと言わない。」

電柱 「そうだったか。」

ロン毛は吹き出した。

さっきまで怒っていたのが嘘みたいだった。

そして思った。



電柱は、いつもそこにいる。

風は、いつもどこかで吹いている。

だから。

上手くいかない日も。

負ける日も。

少しくらいなら。

笑って帰れそうな気がした。

夕焼けの中。

風が優しく吹き抜ける。

電柱は変わらず立っていた。

そしてロン毛は、また明日もここを通ろうと思った。

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