第71話 忘却の川
記憶の橋を渡りきった先。
そこには、小さな町のような広場が広がっていた。
石畳の道。
木造の家。
どこか懐かしい夕焼け。
そして、たくさんの人々。
風「賑やか。」
ロン毛「思ったより人がいるな。」
風「みんな、失くした人。」
ロン毛「失くした人。」
風「うん。」
風「大切なもの、大切な人。」
風「思い出とかいろいろ。」
ロン毛「そうか。」
ロン毛は町を歩く。
広場のベンチには、若い女性が座っていた。
手には古い写真。
女性「会いたいな。」
ロン毛「誰か探してるんですか。」
女性「主人。」
ロン毛「……。」
女性「先に行っちゃって。」
女性「私はまだ。」
女性「ありがとうって言えてないの。」
ロン毛「そうですか。」
女性「変よね。」
女性「何十年も経つのに。」
ロン毛「変じゃないと思います。」
女性は少し笑った。
女性「あなたも?」
ロン毛「ああ。」
女性「会えるといいわね。」
ロン毛「ありがとうございます。」
さらに歩く。
噴水の近く。
小学生くらいの男の子が一人、空を見ていた。
ロン毛「何してるんだ。」
少年「犬を待ってる。」
ロン毛「犬?」
少年「うん。」
少年「まる。」
少年「先に行っちゃったから。」
ロン毛「そうか。」
少年「でも。」
少年「また会える気がするんだ。」
ロン毛「会えるさ。」
少年「お兄ちゃんも?」
ロン毛「ああ。」
少年「じゃあ一緒だ。」
少年は笑った。
その先。
広場の端で、一人の老人がギターを磨いていた。
ロン毛「ギターか。」
老人「懐かしいか。」
ロン毛「ああ。」
老人「息子のだ。」
ロン毛「……。」
老人「ミュージシャンになりたいって言ってな。」
老人「夢半ばで逝ってしまった。」
ロン毛「そうですか。」
老人「だから時々弾くんじゃ。」
老人「下手くそじゃが。」
ロン毛「そんなことないですよ。」
老人「お前さんも弾くのか。」
ロン毛「ああ。」
老人「誰かのためにか?」
ロン毛「……。」
老人「その顔は。」
老人「そういう顔じゃな。」
ロン毛「好きな人。」
老人「ほう。」
ロン毛「喧嘩して。」
ロン毛「謝れなくて。」
ロン毛「いなくなった。」
老人「そうか。」
ロン毛「会いたいんです。」
老人「会えるといいな。」
ロン毛「会います。」
老人「強い目じゃ。」
老人は笑った。
そしてギターを優しく撫でた。
夕暮れ。
町には笑い声が響いていた。
悲しみを抱えた人ばかりなのに。
どこか温かい。
どこか優しい。
風「不思議。」
ロン毛「ああ。」
風「悲しい人ばっかりなのに。」
ロン毛「みんな。」
ロン毛「大切だったから悲しいんだろ。」
風「大切。」
ロン毛「そう。」
風「虹ちゃんも?」
ロン毛「ああ。」
風「大好き?」
ロン毛「……。」
風「照れてる。」
ロン毛「うるさい。」
風「えへへ。」
その時。
広場の奥。
一人の老人が、ロン毛をじっと見つめていた。
白い帽子。
古びたコート。
どこか見覚えのある顔。




