第65話 虹と出会う
記憶を司る者、ナムネは静かに微笑んでいた。
ロン毛「お前がナムネか。」
ナムネ「うん。」
ロン毛「やっと会えた。」
ナムネ「頑張ったね。」
ロン毛「そんなことより。」
ロン毛「虹はどこだ。」
ナムネ「ふふ。」
ロン毛「笑うなよ。」
ナムネ「ごめん。」
ロン毛「会わせてくれ。」
ナムネ「……。」
ロン毛「頼む。」
ナムネは少しだけ悲しそうな顔をした。
ナムネ「会いたい?」
ロン毛「当たり前だ。」
ナムネ「なら。」
ナムネ「会わせてあげる。」
ロン毛「!」
ナムネ「ついてきて。」
二人は神殿の奥へ進む。
無数の本棚。
白い花。
穏やかな光。
そして一番奥。
大きな鏡の前でナムネは立ち止まった。
ナムネ「この鏡はね。」
ナムネ「あなたの一番大切な人を映す。」
ロン毛「……。」
鏡が光り始める。
七色の光。
春の風。
雨上がりの匂い。
そして。
一人の少女。
???「……。」
ロン毛「なんか白い……?」
???「ロン毛。私だよ。」
ロン毛「虹!」
虹「久しぶり!」
ロン毛「お前。」
虹「会いたかった!」
ロン毛「俺もだ!」
虹「えへへ!」
あの笑顔。
あの声。
春の日から変わらない。
ロン毛が手を伸ばす。
しかし。
指先は届かなかった。
水面のように揺らぎ。
虹の姿が少し霞む。
ロン毛「?」
虹「……。」
ロン毛「なんで。」
虹「ごめん。」
ナムネ「それ以上は無理。」
ロン毛「え。」
ナムネ「今の虹ちゃんは。」
ナムネ「ここにはいない。」
ロン毛「どういうことだ。」
ナムネ「これは。」
ナムネ「アシスの夢。」
ロン毛「夢。」
虹「本当は。」
虹「もっと近くに行きたい。」
虹「でもできないの。」
ロン毛「なんで。」
虹「アシスおにーちゃんが。」
虹「苦しんでるから。」
ロン毛「……。」
ナムネ「調和を司る者、アシス。」
ナムネ「私の親友。」
ナムネ「今、消えかけてるという噂は本当」
ロン毛「!」
虹「だから、私も少しずつ消えてる。」
虹「アシスおにーちゃんを助けて。」
ロン毛「アシス。」
虹「うん。」
虹「私の大好きな人。」
虹「優しくて。」
虹「いつも笑ってて。」
虹「私を作ってくれた人。」
ロン毛「作った。」
ナムネ「それは。」
ナムネ「また今度。」
虹は笑った。
ロン毛「笑ってる場合か。」
虹「だって。」
虹「ロン毛に会えたもん。」
ロン毛「……。」
虹「嬉しい。」
その時。
神殿が揺れ始めた。
ゴゴゴ……。
ナムネ「まずい。」
ロン毛「!」
虹の身体が少しずつ透けていく。
ロン毛「おい!」
虹「大丈夫。」
ロン毛「大丈夫じゃない!」
虹「ふふ。」
虹「ロン毛。」
ロン毛「なんだ!」
虹「またね。」
ロン毛「待て!」
虹「ナムネの庭に。」
虹「ヒントがあるよ!」
ロン毛「虹!」
虹「私。」
虹「ずっと見てるから!」
ロン毛「!」
虹「だから。」
虹「頑張って!」
七色の光が広がる。
そして。
虹の姿は消えた。
ロン毛「……。」
ナムネ「ロン毛。」
ロン毛「なんだ。」
ナムネ「虹ちゃんに会いたいんでしょ?
なら私の庭へ。」
ナムネ「そこに。」
ナムネ「アシスちゃんへ続く答えがある。」
その瞬間。
ナムネの身体もまた光に包まれる。
ロン毛「ナムネ!」
ナムネ「記憶は。」
ナムネ「なくならない。」
ナムネ「また会おう。」
そう言い残し。
ナムネもまた、静かに消えていった。
窓の外から吹く優しい風。
風「行こう。」
ロン毛「ああ。」
ロン毛「待ってろ。」
ロン毛「虹。」
ロン毛は、本を抱えて再び歩き始めた。
七色の光の向こうへ。




